「おまかせします」も一つの明確な自己主張 増田慎三先生インタビュー

(名医が語る最新・最良の治療 乳がん 2011年11月25日初版発行)

新薬が続々登場する乳がん治療。臨床研究を推進し患者さんに最大の利益をもたらしたい。

増田慎三先生

 「15年前、外科のなかでもその専門分野を決める際に、まわりからは一生涯乳房しか診ないの? と驚かれましたが、乳がんはまさに全身病。最近はがんだけでなく、患者さんの体の健康状況が治療効果にも影響を与えることがわかってきましたから、ますます奥が深い分野です。当時は、その専門医が少なかった時代ですが、『乳腺学』を選択して、よかったなと」。
 そう話す増田先生の表情に充実感が漂います。増田先生は、世界の先端を走る多くの臨床試験のデザインや実施に携わり、いまや乳がん研究の第一人者。しかし、もともとは、外科医としてダイナミックな手術を中心に「がん」全般の治療にかかわりたかったそうです。研修を終えて、最初に勤務した病院で乳腺専門の先生と出会ったのが、乳がん診療に進むきっかけに。「当時(90年代半ば)で、乳がんの患者さんが年間100例を超えていて、多くの患者さんに出会いました。乳がんは一人ひとりの患者さんに、診断を行ってから、手術、薬、経過観察と少なくとも10年間はずっとかかわることができる。万が一、再発してもいろいろな方法を試み、おつきあいを続けていく。一人の患者さんとトータルにかかわれるところにとてもひかれました」。
 乳がん治療の基本はもちろんそのがんを取り除く手術といえます。「過去のデータから推測すると、手術だけでも治る人は半数近くはおられます。でも過半数はすでに全身に微小転移をおこしていて、遅かれ早かれどこかのタイミングで再発(全身転移)をおこしてくる。全身に広がったがんを消滅させるには薬物療法が必要で、その効果を高める目的で、多くの新薬が開発されています。有効な新薬が登場するたびに、乳がん治療成績が改善することを実際にこの20年弱経験してきました」。だからこそ、手術に、上手に薬物療法を組み合わせた総合的なアプローチが大切と先生はいいます。
 「乳がん治療は、薬物療法がもっとも多岐にわたり展開されている。個々の患者さんに応じて薬を利用していく緻密な治療戦略が求められる。それは、医師にも相応の経験と知見が求められるということです」。
 患者さんごとに適切な薬を選び、よい結果が出れば、患者さんも喜んで前向きになり、自分たちの達成感や満足感も大きい。それがさらに次の新たな臨床試験の試みにつながっていくといいます。
 乳がんの分野ではトピックスに事欠かず、いまは骨の問題や肥満や耐糖能といった代謝環境とのかかわりも指摘されています。専門医こそ、日々進化し、変化する知見について、関心と情報収集力が求められます。
 また、患者さんには「自分の希望はきちんと話して、自己主張することも大事」としながらも増田先生は「おまかせします」も一つの明確な自己主張として捉えています。「それは決して自分の意思がないということではなく、僕らをとても信頼してくれるからこその言葉、素直にうれしい」。
 乳がんで死なせない、患者さんには寿命をまっとうしてもらうというのが、増田先生の大きな目標です。そのためには、医療チームとともに患者さんへのコミュニケーションが欠かせないそうです。「医師と患者との関係でも、お互いの相性というのは、どうしてもあると思うのです。クラスの同級生でも友人になれる人となりにくい人がいるのと同じ。そこを無理にどちらかが同化することは考えないほうがよい。以前は、ほかの病院を選択される患者さんがいると、とても残念な思いをし、引き止めたいという気持ちもありましたが、いまは、われわれの力が必要なときにはまた戻ってきてくださいね、と送り出すことができるようになりました。これも経験ですね」。

増田慎三(ますだ・のりかず)先生

増田慎三先生

国立病院機構大阪医療センター外科医長・乳腺外科科長
1969年大阪生まれ。1993年、大阪大学医学部卒。2001年、同大学院卒、医学博士。大阪逓信病院(現:NTT西日本大阪病院)、市立堺病院を経て、03年国立病院大阪医療センター(現、国立病院機構大阪医療センター)に就任、13年4月、同外科医長・乳腺外科科長に。「乳がんから女性を救う診療と研究」を目標に、診断、手術、薬物療法に総合的に取り組む。エビデンスに基づいた標準治療はもちろんのこと、さらに治療成績やQOL向上を目指し、臨床試験に積極的に取り組む。新規薬剤の開発治験の経験も豊富である。