【コラム】乳がんの「患者力」を引き出すサポートとは

(名医が語る最新・最良の治療 乳がん 2011年11月25日初版発行)

ケアを担うチーム医療の重要性

 乳がんの診療にとって、チーム医療が欠かせないことは、これまでも指摘されています。外来通院で行う薬物療法の普及も含め、患者さんの治療の継続への意思・意欲、その間の生活の質を保つ重要性は、さらに増しています。患者さんの自主性やもともともつ力を土台に、医療者がサポートする試みについて、昭和大学病院ブレストセンターのシステムを紹介します。

昭和大学医学部乳腺外科教授・昭和大学病院ブレストセンター長 中村清吾 昭和大学医学部乳腺外科医学部特別研究生 渡邊知映 昭和大学病院乳腺外科・ブレストセンター薬剤師 奥山裕美

ブレストセンター

中村
 乳がんの一連の診療の流れにとって、連携というのは、重要なキーワードです。私は、1000対50対3の法則といういい方をよくしていますが、1000人の女性が乳がん検診を受けると、50人に何らかの異常がみつかり、そのうちの3人にがんが発生するといわれています。実際にがんが発生した患者さんに対して行われる精密な検査・診断、手術や乳房再建、いわば急性期の治療を担うのが、われわれのような専門施設の役割です。そのためのマンパワー、機器、システムを充実させる必要があります。その前後、つまり、集団検診や、急性期の治療が終わったあとの定期検診、あるいは、不幸にも転移などで症状が進んだ場合の在宅でのケアなどは、地域のクリニックなどが、われわれのような施設と密接に情報をやりとりしながら受けもつ。そこで、私たちは、地域連携パスの開発、連携クリニック共同の勉強会・研究会などを重ね、東京都内のネットワークづくりに努力してきました。それが、現在、Tokyo Breast Consortium(TBC)として機能しています。
 連携といったとき、もう一つ重要な側面は、院内のスタッフ間の連携です。当センターでは、受付のスタッフから画像診断の技師、病棟・外来の医師・看護師、薬剤師など、センターで働くすべてのスタッフが週1回集まり、昼食をとりながら各自報告し合うカンファレンスを行っています。患者さんに向き合う姿勢や、情報の共有を目的とするものです。
 患者さんは、どうしてもわれわれ医師の前では優等生でいようとする傾向があります。わからなくてもそのまま、いいたくてもいい出せない。もちろん、私たち医師が忙しくしていることも理由の一つですが…。うちは、そうした患者さんの疑問や悩みをそのまま置き去りにせず、「あとはよろしく」とまかせられる専門のスタッフが各所にいるところが強みです。
渡邊・奥山
 あとはよろしく、は多いですよね(笑)。
中村
 それはスタッフが優秀だから…。もう一つ、ユニークな取り組みとしては、リボンズハウスというオープンスペースを設けたこと。渡邊さんが常駐してくれて、患者さんはいつでも立ち寄って、いろいろな問題を一緒に解決できるようになっています。薬については、奥山さんがまさに守護神として、患者さんのフォローをしてくれています。
 たとえば、Aさんの例(他クリニックから紹介され、当センターで遺伝性乳がん・卵巣がん症候群と診断され治療)では、われわれのチーム力が、大いに発揮されたと思いますが。

昭和大学病院ブレストセンター チーム医療の実際 Aさんの場合

渡邊
 Aさんには、まだ日本ではあまり知られていない遺伝性の乳がんということで、その詳しい情報を提供したり、仕事をしながら抗がん薬治療を続けるための相談にのったりしました。
奥山
 Aさんからは抗がん薬治療についての詳細説明のご希望があったため、抗がん薬治療を受けるメリットについて、薬剤説明と副作用の管理とともにお話ししました。当時当院で行っていた臨床試験についても選択肢の一つとしてお伝えしています。各部門の連携により、Aさんは十分に納得し、理解したうえで治療を受けていただくことができたと思います。
渡邊
 現在、私は臨床研究のマネージメントという仕事を担う一方で、リボンズハウスでは、自由な立場で、患者さんの要望に柔軟に対応できるのが新鮮です。治療と生活をつなげることが大きな目標ですね。情報や知識の収集のお手伝い、担当医との診察でわからないこと、またはいい出しにくいことなど困っていることは何でも、患者さんと一緒に解決法を考えます。一つ問題がおこっても、患者さんごとに受け止め方、解決の仕方は違ってきます。がんそのものの病期(ステージ)やタイプだけでなく、考え方や家族のなかでの立場、働いているかいないか、独身か子どもはいるか、といったその人自身の状況を知らないままでは、その人にとって腑(ふ)に落ちる解決の糸口はみつかりません。患者さん自身が、それに気づくことも大切です。自分にとって、何が問題なのかがわからないまま、悩んでいる患者さんも少なくないので…。私たちは、その整理の手助けをしていきたいと思っています。
奥山
 そうですね。副作用の問題の裏側には、実は夫やお姑(しゅうとめ)さんとの関係があったということもあります。ドクターにはいえない、患者さんの本音に耳を貸すのが私たちの大きな役割でもあります。患者さんは「こんなこと」と思わずに、声を上げてほしいと思っています。それにより副作用の解決につながる場合もあるからです。患者さんの力になれるスタッフやしくみをつくり出すのがチーム医療の真骨頂だと思います。
中村
 治療を進めていくうえでは、医師にいえないことは多いみたいですね。
渡邊
 診察を前に不安そうな患者さん、診察を終えても表情が暗い患者さん。話してみると、疑問がいっぱい。そんなとき、患者さんがわからないことを代わりに担当医や看護師に伝えるのではなく、何が理解できなくて、どういうふうに聞けばいいのかを一緒に考えるようにしています。本当の意味で、患者さんが自分の足で立ち、自分の考え、言葉でコミュニケーションしながら、自立する。主体的に治療にかかわる姿勢を支えていくのが大切だと思っています。
奥山
 チーム医療は患者さんが治療に自発的に取り組む手助けをすることに尽きるといってもいいかもしれません。たとえば、乳がんの治療にとって、「薬」の位置づけはますます大きくなっています。抗がん薬の治療はほとんで外来で行います。それだけに、患者さん一人ひとりの自己管理、家庭での副作用への対応などが大切です。当センターでは、薬物療法を始める際には、看護師がオリエンテーションを行い、とくに不安が強かったり、詳細な薬剤説明を求める患者さんには、私からの説明を実施します。薬については、副作用のイメージが一人歩きしている印象です。IT化が進み、いろいろな情報にアクセスできる環境にありますが、患者さんが正確な知識、適正な情報にアクセスできているか、というと、必ずしもそうではありません。なぜか、偏った情報に振り回されてしまう場合が多いようです。
渡邊
 情報の集め方、たくさんの情報のなかから、自分の病状に合った情報を咀嚼(そしゃく)していく方法などを一緒に身につけていくのも、リボンズハウスの課題です。
奥山
 現在の乳がんの治療は、がんのタイプに合わせて治療を決定する個別化治療が進んでいます。さらに、その方に合ったオーダーメード治療としていくためには、患者さん自身に治療を理解していただき、医療者が患者さんの状況に合わせたサポートを行うことが必要です。家庭環境や経済面も確認する必要があります。患者さんは一人で悩まず、焦らず、病気と向き合うことで、社会とのつながりを見出してほしいと願っています。
 進歩していくがん治療を個別の患者さんに適した形で提供していけるよう、患者さんを支えていきたいと思います。
渡邊
 患者さんたちは、これまでも十分病気と向き合ってきている、そして、もっともっと向き合う力をもっていると信じています。それを引き出すために、リボンズハウスでは、コスメティックやエクササイズ、薬の知識など、体を動かしたり勉強したり、いろいろな面から患者さんの生活を豊かにするプログラムを企画していきます。どの企画にも、その道のプロフェッショナルに加わってもらい、患者さんのもつ「力」をさらに応援していきたいと思っています。
中村
 今後も、患者さんと一緒に、がんとともに生きるサバイバーシップをサポートしていきましょう。

中村清吾(なかむら・せいご)先生

中村清吾先生

昭和大学医学部乳腺外科教授・昭和大学病院ブレストセンター長
1982年千葉大学医学部卒業。同年より、聖路加国際病院外科にて研修。1993年2月から、同病院情報システム室室長兼任。1997年M.D.アンダーソンがんセンターほかにて研修。2003年5月より、聖路加国際病院外科管理医長。2005年6月より同ブレストセンター長、乳腺外科部長。2010年6月より、現職。

奥山裕美(おくやま・ひろみ)薬剤師

奥山裕美薬剤師

昭和大学病院乳腺外科・ブレストセンター薬剤師
1983年明治薬科大学卒業、2009年東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科修士課程修了。帝人中央研究所、都立駒込病院、聖路加国際病院勤務を経て、10年より現職。2003年に、M.D.Anderson Cancer Centerが主催したセミナーに参加。そこで経験したチーム医療のあり方に触発され、現在は乳腺外科チームのメンバーとともに、日本人にふさわしいチーム医療を推進している。

渡邊知映(わたなべ・ちえ)特別研究生

渡邊知映特別研究生

昭和大学医学部乳腺外科医学部特別研究生
2005年東京大学大学院医学系研究科博士後期課程単位取得退学 看護師・保健学修士。癌研究会有明病院化学療法科データマネージャー、東京慈恵会医科大学看護学科講師を経て、2011年より現職。看護師の経験を生かして、がん患者さんの自立をサポートする新たな医療システムを模索している。