乳がん手術のプラス治療 術前・術後薬物療法と術後放射線療法はどのように行われるか?

木下貴之先生
監修:国立がん研究センター中央病院乳腺外科科長 木下貴之先生

2017.10 取材・文:町口充

 がんがかなり進行している場合などを除いて、治療の基本となるのは手術ですが、乳がん治療では、それに加えて患者さんにとって最も適切と考えられる順序で薬物療法や放射線治療など、いくつかの治療法を組み合わせて行われ、完治をめざします。手術の前や後に行われる追加治療はどのように選択され、その効果はどのようなものなのでしょうか。

術前薬物療法はサブタイプに合わせて薬を使い分ける

 乳がん手術に際して多くの場合、術前や術後に薬物療法による追加治療を行います。その目的はまず、血液やリンパ液の流れにのって全身に散らばっているかもしれない微小転移を抑えることです。加えて術前薬物療法では、がんの再発・転移を防ぐことに加えて、薬物を投与してある程度病変を小さくすることで手術が困難な進行乳がんを手術できるようにしたり、がんが大きくて部分切除(乳房温存)が難しい乳がんを部分切除にまでもっていくのが目的となっています。

 国立がん研究センター中央病院では、「大きさが3cm以上」で、「リンパ節転移がある」、「局所進行の乳がん」と診断された患者さんが術前薬物療法の対象となっていて、がんの生物学的特性によっても薬の適応が変わってきます。

 乳がんの薬物療法に用いられる薬には、化学療法薬(従来の殺細胞性抗がん薬)、ホルモン療法薬、抗HER2薬(分子標的薬)の3種類があります。乳がんは生物学的特性の異なるさまざまな種類の細胞で構成されており、その違いにより薬への反応性も異なります。現在、乳がんの性質の違いによって5つのサブタイプに区別し、それぞれに適した薬物療法が選ばれるようになっています(Part1表1参照[リンク先URL])。

 5つのサブタイプは、ルミナルAタイプ、ルミナルBタイプ・HER2陰性、ルミナルBタイプ・HER2陽性、HER2陽性タイプ、トリプルネガティブとして分類されますが、このうちHER2タイプとトリプルネガティブは治療に使う薬剤の感受性が高いため、術前薬物療法の効果がより期待できるといわれています。実際の症例でも、がんの大きさが6~7cmもあったHER2陽性タイプの乳がんが術前薬物療法によってほぼ肉眼では見えないぐらいに縮小し、部分切除により乳房温存ができたケースがあります。

 術前薬物療法の内容については、化学療法を行う場合はアンスラサイクリン系薬剤を含む多剤併用療法とタキサン系薬剤などが使われます。治療は3~6か月の期間で行うのが一般的です。

 乳がんの7~8割を占めるといわれるホルモン受容体陽性の場合、どの薬を選択するかは閉経を境に女性ホルモンの生産部位が変わるため、「閉経前」か「閉経後」かで変わります。

ホルモン受容体陽性なのがルミナルタイプ(ルミナルAタイプ、ルミナルBタイプ・HER2陰性陽性)で、術前に行われるのは化学療法またはホルモン療法です。ルミナルAタイプでは術前ホルモン療法だけでもがんを縮小させる効果があることがわかっています。ただし、閉経後乳がんを対象とした術前ホルモン療法の臨床試験の結果はいくつかありますが、閉経前乳がんへのホルモン療法はデータが少なく、一般的ではありません。このため、ルミナルタイプAに対しては大きさが3cmを超えていても術前の薬物療法の効果が不確実なため、先に手術することもあります。

 閉経後乳がんの術前ホルモン療法で使われるのはアロマターゼ阻害薬です。治療期間は明確には定まっていませんが、一般に6か月ほどホルモン剤を使用します。

 また、HER2陽性タイプの場合は、抗HER2療法が加わり、化学療法やホルモン療法の際に、抗HER2薬であるトラスツズマブ(製品名:ハーセプチン)を併用します(図1)。

術後のホルモン療法は5年、10年の長期戦となる

 手術でがんを取り切ったあと、がんが小さく、転移もなく、再発する危険性がきわめて低いと判断されれば、手術後の追加治療はなく、そのまま経過観察となります。しかし、多少でも転移による再発の可能性が考えられる場合には追加の治療として術後の薬物療法を加えることになります。この場合、腋窩リンパ節への転移の有無、病変の数や大きさ、がん細胞の生物学的な特性(サブタイプ)などを検討して再発のリスクを判断し、薬物療法が行われます。

 HER2陽性ならトラスツズマブの投与が約1年、ホルモン受容体陽性ではホルモン療法を5~10年、継続して行います。

 ホルモン受容体陽性の場合、閉経前では抗エストロゲン薬(5年)と、LH-RHアゴニスト製剤(2~5年)を併用することがあります。抗エストロゲン薬のタモキシフェン(製品名: ノルバデックス)を5年間服用すると再発の危険性を半分近くに減らすといわれています。投与を続けることで長期間再発を減らすことが期待される場合には、副作用との兼ね合いを考えてさらに5年間、合計10年間の服用を検討します。比較的若年の患者さんとか、リンパ節転移があるなどリスクが高い場合は、10年に延長することが多いようです。

 また、LH-RHアゴニスト製剤を1か月に1回または3か月に1回(場合によっては6か月に1回)、2~5年間皮下に注射することでさらに再発を減らすことが期待される場合があります。

 閉経後ではアロマターゼ阻害薬もしくは抗エストロゲン薬(5年)を用います。アロマターゼ阻害薬には、アナストロゾール(製品名 :アリミデックス)、レトロゾール(製品名: フェマーラ)、エキセメスタン(製品名: アロマシン)の3種類があり、効果はほとんど同じとされています。いずれも内服薬です。アロマターゼ阻害薬を手術後5年間服用すると、タモキシフェンを5年間服用するのと比べ、再発リスクを5年間で数%改善させることが示されています。また、タモキシフェンを2~3年間服用している患者さんが途中でアロマターゼ阻害薬に変更して合計5年間服用する方法や、タモキシフェンを5年間服用後にアロマターゼ阻害薬に変更して2~5年間服用する方法もあります。

 術前に抗がん薬を用いた化学療法を6か月行った場合には、原則として化学療は行いません。化学療法を手術前に行うときは最大の効果を得るため、すでに適正な量を全量投与しているためです。副作用などで6か月未満で中断してしまった場合は、術後に残りの投与を行うこともあります。HER2タイプの場合は、トラスツズマブを術前術後で合計1年間になるように投与します。

局所再発リスクの高い場合は追加の照射も検討する

 初期治療として行われる放射線療法は再発予防が目的です。部分切除の場合は手術後の放射線療法が必須となり、これにより局所再発を防ぎます。一方、全摘した患者さんに対しては、がんの大きさがそれほどではなく、リンパ節への転移があっても数が少ない場合は薬物療法のみですが、がんの大きさが5cm以上、あるいは腋窩のリンパ節転移が4個以上という場合、再発の可能性が高いと判断され、薬物療法と放射線療法を組み合わせた治療が標準的に行われるようになっています。

 放射線療法は通院で行われますが、週5回、5~6週間かかるのが一般的です。部分切除では温存した乳房全体に、全摘では切除した側の胸壁全体と鎖骨上部に照射します。

 また、早期乳がんでセンチネルリンパ節に2個以下の転移を認め、腋窩リンパ節郭清が省略された場合、その先への転移のリスクが高いと判断されれば腋窩リンパ節への放射線治療が推奨されています。

 部分切除の患者さんで断端陽性などがあり局所再発リスクが高いと判断されたときは、全乳房照射後に追加照射(ブースト照射)が勧められます。乳房内の局所再発の多くは、がんがあった部位の周囲に起こるため、全乳房照射後にがんがあった部位に5回の追加照射を行います。断端陰性でも、年齢が50歳未満、あるいは腋窩にリンパ節転移があると再発率がやや高くなる傾向があるため、追加照射が行われることがあります。

図1 手術と追加治療の例

放射線治療も短期化・簡便化・低侵襲化が目指されている

 放射線療法においても、短期化・簡便化・低侵襲化の動きが出てきています。

 部分切除後に行われる全乳房照射では、5~6週間にかけて毎日通院して乳房全体に放射線を照射しますが、治療期間が長く、患者さんの生活にさまざまな負担をかけることになります。これに対して「SAVI(サヴィ)」という機器を使った「加速乳房部分照射」と呼ばれる治療法が開発され、一部の施設で行われるようになっています。

 がん病巣切除後の乳房内に挿入して、内側から近くの組織に向け、直接放射線を照射します。数本のカテーテル(細いチューブ)を挿入し、小線源(ごく小さな粒状の放射性物質)によって体の内側から照射することで、放射線照射の期間を大幅に短縮できます。連続5日間で1日2回、合計10回照射します。

 期間を短縮できるうえ、部分照射することで被曝をより小さくできる利点もあります。従来の方法より合計の放射線量は少なくなりますが、1回の放射線量は高いので、ピンポイント照射により再発予防効果が期待できます。

 小線源を使った放射線治療は日本ではすでに前立腺がんや子宮頸がんの治療で行われており、SAVIによる加速乳房部分照射も保険適用となっています。現在、全乳房照射と加速乳房部分照射を比較する臨床試験が進行中で、整容性や安全性も含めた成績がよければ広く普及していくことになるでしょう。

プロフィール
木下貴之(きのしたたかゆき)

1988年 慶應義塾大学医学部卒業
1991年 慶應義塾大学医学部一般消化器外科乳腺グループ入局
1994年 国立東京第二病院外科医員
1998年 米国テネシー大学に留学
2000年 国立病院東京医療センター外科、治験管理室長
2002年 国立がんセンター中央病院(現国立がん研究センター中央病院)乳腺科医員。その後、同乳腺科医長、国立がん研究センター中央病院乳腺科・腫瘍内科副科長
2012年 国立がん研究センター中央病院乳腺外科科長