「最良の方法を整えていくのが医療者の責任」大住省三先生インタビュー

本記事は、株式会社法研が2011年11月25日に発行した「名医が語る最新・最良の治療 乳がん」より許諾を得て転載しています。
乳がんの治療に関する最新情報は、「乳がんを知る」をご参照ください。

遺伝子診断は高リスクの人の命を守る検査だと患者さんに知っていただきたい。遺伝カウンセリングの充実など、そのシステム作りが、急務です。

大住省三先生

 乳がん診療は、ほかのがんと比べて国際的な動向をいち早く取り入れ、ドラッグラグやデバイスラグ(海外ではすでに使用が認められている医薬品や医療機器に対して、日本では国の承認が得られていない状態)が少ない分野です。国際的なコンセンサス(同意)を得るための学会なども積極的に行われるなか、「こと、遺伝子の分野については一(ひと)時代も二(ふた)時代も遅れている。先進国というにも恥ずかしい状況」と大住先生は嘆きます。
 当初は上司の一声で立ち上げた「遺伝部門」、もともと病理が専門の大住先生もその分野に明るかったわけではありません。しかし、実際に取り組むうちに「このままではいけない、何とかしないと」と、研究を深めていきます。「本当に深刻な家系があります」。20代後半で乳がんを発症した女性、妹の1人が悪性リンパ腫(しゅ)、もう1人の妹は21歳で乳がん死、いとこは骨肉腫、父親は30代で発がん。本人は、手術後、反対側の乳房にしこりがみつかりましたが、幸いにもがんではなかったそうです。「ただし、リスクが高いことはわかっているので、MRI検査を行い、慎重に状態を確認しています」。高リスクだとわかっていれば、通常より頻繁に検査を重ね、早期に適切な対応が可能になってきます。
 しかし、大住先生が「あまりに遅れている」と指摘するように、日本の場合、遺伝子の検査を行うことへの抵抗もありますが、検査を受けたあとのシステムがまったくといってよいほど整備されていないのです。発症の確率が高い遺伝子は、変異の有無を調べて、おしまい、というわけにはいきません。むしろ、そこからがケアの本番、その遺伝子変異をもっている人とその家族には、医療的にも、社会的、精神的にも、さまざまな側面からのサポートが必要になってきます。
 「検査ができるとうたっている施設は少なくないようですが、その後の体制が整っているのは、本当に数えるほど」。だからこそ、端緒についた自分の施設ではシステムを充実させたいと、ようやく、専任の認定遺伝カウンセラーを置くまでにこぎつけました。「オランダなどでは、未発症者のサーベイランスが進んでおり、全国レベルで登録制のシステムが確立しています。
 アメリカでは予防的な乳房や卵巣の切除をする人もいたり、また、不当な差別を受けることのないように法律も整備されています」。それに比べると、日本は、国としての施策は、まったく手つかずといっても過言ではないのです。
 「倫理的な手続きは尊重しながら、あらかじめリスクが高い人をみつける。そして、みつかったら、それに対して最良の方法を整えていくのが医療者の責任だと思います」。検査の受けやすい土台作り、不安を取り去る環境作り…。乳がんは、中高年で発症したとしても、治療期間は長く、再発のリスクを考えると、つきあいの長いがんとなります。
 若年性乳がんではそれ以上に、長期間、乳がんと向き合っていかねばなりません。「まず、よく知ってもらうこと」と、アメリカで制作されたDVDの配布を行ったり、患者の会との連携も進めているところです。大住先生自身、遺伝カウンセリングのセミナーに参加することも。「巻き込まれた形で始めたことですが、いまは、遺伝腫瘍の臨床をやると心に決めています。医師だけでは到底カバーしきれない広い分野の人材やシステムが必要ですが、ここまできたのですから、使命感もあります」。
 そもそも日本は、乳がんの検診率自体「諸外国に比べてみっともないほど低い」ことも課題の一つ。「とにかく検診を受けましょう。治療は、納得のいく対処法を患者さんと吟味します。無理なものは無理とはっきり伝えたうえで、よりよい方法を柔軟に検討するのが大切だと思っています」。

大住省三(おおすみ・しょうぞう)先生

大住省三先生

国立病院機構四国がんセンター がん診断・治療開発部長兼乳腺外科医長
1957年徳島市生まれ。82年岡山大学医学部卒業。愛媛県立伊予三島病院外科などを経て、91年より1年間米国スタンフォード大学留学(病理学)。93年国立病院四国がんセンター外科勤務。2005年乳腺科医長、12年がん診断・治療開発部長を兼任。

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