乳がん治療中に出会ったパートナーと結婚、ホルモン療法を中断し妊活を決意した理由
- お名前
- ゆみさん(ニックネーム)
- 年代
- 40代
- 性別
- 女性
- 家族構成
- 夫と二人暮らし(診断当時は独身)
- 仕事
- 当時在宅ワーク(ITエンジニア)、現在無職
- がんの種類
- 乳がん
- 診断時ステージ
- ステージ2B(自己判断)
- 居住地
- 神奈川県
- 診断年
- 2024年

写真はイメージです。(AIによる生成)
2022年、ゆみさんは39歳の時に市の検診で胸のしこりを指摘されましたが、その時は「明らかに良性」と診断されました。しかし2年後、同じしこりが悪性の乳がんであることが判明します。治療のさなかに現在の夫と出会い結婚。そして、再発予防のためのホルモン療法を中断し、不妊治療の道へ進むことを決意しました。がんの経験を通じて、自身のライフプランと向き合うことになった、ゆみさんにお話していただきました。
2年越しの「がん告知」
私が最初に胸のしこりに気づいたのは、39歳の時でした。市の乳がん検診でマンモグラフィ検査を受けたところ、「しこりはあるが、明らかに良性」という結果で、その時は特に気にしていませんでした。自分でも触ればわかるくらいの大きさでした。
それから2年後の2024年、41歳の時に会社の健康診断で超音波エコー検査を受けたところ、「要精密検査」となりました。2年前のしこりが、自分でも目で見て「ボコッとしている」とわかるくらいに大きくなっていたのです。普段、私は視力が悪く、お風呂に入る時は眼鏡を外しているので、自分の体の変化に全く気づいていませんでした。
健康診断を受けたクリニックから紹介状をもらい、自宅近くにある乳腺専門のブレストクリニックを受診しました。そこで組織を採って調べた結果、悪性の乳がんであることがわかったのです。
医師からがんの告知を受けた時、私は「治るんでしょうか?」と尋ねました。しかし、医師からの返事は「治る」という言葉ではなく、「これから治療していきましょう」というものでした。過去に良性と言われたものが、がんだった。その事実を受け止めきれず、家に帰ってから「検査のミスを裁判で訴えることはできないか」とインターネットで調べたほどです。しかし、1回の検査だけでは難しいということがわかり諦めました。
手術へ向けて、情報と向き合う
がんと診断してくれたクリニックの先生は、週に一度、大きな総合病院でも診察しているとのことでした。私自身、病院に関する情報を持っていなかったので、そのまま先生にお願いし、総合病院で手術を受けることになりました。
診断が確定したのが8月。手術日は最短で2か月後の10月31日に決まりました。それまでの間、転移の有無などを調べるためのさまざまな検査が始まりました。
がんは虫歯のようなものだから、悪いところは全部取ってしまおうと考えていました。そのため、最初の診察では医師に「胸を全部切除してください」と伝えました。
しかし、手術までの2か月の間に、少しずつ気持ちに変化が生まれます。「神奈川県 乳がん 相談」などのキーワードで検索し、乳がん患者の当事者会に一度だけ参加してみることにしました。
参加してみると、トリプルネガティブの方や抗がん剤治療をされている方など、自分よりも重い症状の方が多くいらっしゃいました。主催者の方が、乳房を全摘した場合に使うパッドを見せてくれたり、ホルモン療法薬を10年飲み終えたけれど再発が不安だ、という話をしてくれたりしたことで、手術後の生活が具体的にイメージできるようになりました。
全摘して再建手術もするとなると、入院期間がかなり長くなります。当時、私は猫を2匹飼っていたので、長期間家を空けることに不安がありました。また、もともと胸が大きいため、全摘すると左右のバランスが悪くなってしまうという現実的な問題もありました。さまざまな情報を得て考えた末、私は医師に「部分切除でお願いします」と、自分の意見を伝え直しました。
治療中に訪れた人生の転機
手術は無事に終わり、残った乳房への再発を防ぐため、20日間の放射線治療が始まりました。術後は、再発予防のためにホルモン療法の薬も飲み始めました。そんな治療のまっただ中で、私の人生の転機が訪れます。
放射線治療を受けている間に、東京都が運営するマッチングアプリでお見合いをした男性と出会いました。それが現在の夫です。
お見合いから数回のデートを重ね、5回目のデートの時に「伝えておかなければいけないことがある」と、自分が乳がんの治療中であることを打ち明けました。病気のことを話したことで、関係が終わってしまう可能性も覚悟していました。しかし、彼は私の告白を真摯に受け止めてくれました。この自己開示が、お互いの関係をより真剣なものへと進めるきっかけとなり、私たちは結婚を前提とした交際をスタートさせました。
ホルモン療法中断という決断
彼との交際が進む中で、「子どもが欲しい」という彼の思いを聞きました。当時の私は42歳。不妊治療の保険適用が43歳までだということもあり、妊活を始めることを決意しました。
そのためには、ホルモン療法の薬を中断する必要がありました。すぐに主治医に「子どもを望んでいるパートナーができたので、薬をやめたいです」と相談しました。医師は私の気持ちを尊重してくれ、「それなら、薬は休んだ方がいいね」と同意してくれました。手術から5か月が経った頃のことでした。
しかし、この決断は私にとって大きな葛藤の始まりでもありました。再発リスクを半減させてくれる予防薬を飲めないということは、単純に考えれば再発率が倍になるということです。その不安に加えて、薬をやめてもなかなか生理が戻らない焦りもありました。
ちょうどその頃、仕事の環境も大きく変わりました。それまでは在宅勤務だったのが、4月から通勤が必須のプロジェクトに異動になったのです。新しい環境と人間関係の変化というストレスは想像以上に大きく、私の心身に重くのしかかりました。「もし妊娠したら1年後にはいないかもしれない職場で、なぜ今こんなに頑張らなければいけないのか」。周囲への興味を失い、仕事への意欲も完全になくなってしまいました。
生活環境の激変と治療の不安が重なり、私は急性ストレス障害と診断され、5月で仕事をやめることになりました。精神的には、この時期が一番つらかったかもしれません。
がんが教えてくれたこと
現在は仕事から離れ、妊活に専念しています。がんになったことで、私の価値観は大きく変わったと感じています。
実は、夫は生まれつきの持病があり、毎日薬を飲んでいます。もし私ががんを経験していなければ、病気のある人を受け入れることはできなかったかもしれません。自分自身が病気と向き合ったからこそ、病と共に生きる人の気持ちを理解し、彼の全てを受け入れることができたのだと思います。
今はまだ、ホルモン療法を中断していることへの不安が消えたわけではありません。本当は薬を飲み続けたい。でも、子どもを産むという希望も諦めたくない。だからこそ、一日も早く妊娠・出産をして、治療を再開したいというのが正直な気持ちです。
がんの治療と、結婚や妊娠といったライフイベントの選択。どちらか一方を選ばなければならない状況は、とてもつらいものです。しかし、自分の人生です。さまざまな情報や制度を活用しながら、ご自身が納得できる道を選んでいって欲しいと願っています。

