早期トリプルネガティブ乳がんに対するアテゾリズマブの治験
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治験名
原発性の浸潤性トリプルネガティブ乳がん患者を対象とした、術前補助療法におけるアテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)+アンスラサイクリン/ナブパクリタキセルベースの化学療法の有効性および安全性の検証を目的としてプラセボ+化学療法と比較するランダム化第3相試験
治験概要:
早期のトリプルネガティブ乳がん対する治験。PD-L1の発現が確認されている患者さんが対象です。
アテゾリズマブ+化学療法とプラセボ+化学療法を比較して有効性と安全性を評価する臨床試験です。
登録予定数は、204人。
フェーズは、3相臨床試験。
試験デザインは、二重盲検、ランダム化、プラセボコントロール試験。
比較する対象は
試験群:アテゾリズマブ+化学療法(ナブパクリタキセル、ドキソルビシン、シクロホスファミド)
対照群:プラセボ+化学療法(ナブパクリタキセル、ドキソルビシン、シクロホスファミド)
有効性、安全性、薬物動態などで評価します。
疾患解説:乳がん
国立がん研究センターのがん統計によると、2014年に乳がんと診断された女性は78529人です。日本人女性の12人に1人がかかるといわれ、女性のがん死亡予測数では5位と罹患数に比べると死亡数は少なくなっています。40代から徐々に増加し50代でいったん減少しますが、60代から70代にかけ増加していき、その後は減少していきます。35歳未満の乳がんは、若年性乳がんといわれ、全体でみると2.7%と少数です。
早期の乳がんでは自覚症状がすくなく、症状の進行とともに症状が現れます。自覚症状の1つが、乳房のしこりで、特徴は、硬かったり動かないことです。そのほかの症状としては、乳頭や乳輪の湿疹やただれ、乳頭からの血が混じった分泌物、えくぼのような乳房のへこみ、皮膚の赤身や腫れ、熱っぽさ、腋の下の腫れやしこり、痛みなどがあります。
乳房は、母乳をつくる小葉と母乳を乳頭まで運ぶ乳管でできていますが、約95%の乳がんは乳管の上皮細胞にできる乳管がんです。
乳がんの診断は、がんの進行度合いで分類するステージ分類とがんの性質で分類するサブタイプ分類で総合的に行われます。ステージ分類は、がんの大きさ、リンパ節への転移、遠隔臓器への転移によって、0期、Ⅰ期、Ⅱ期(ⅡA、ⅡB)、Ⅲ期(ⅢA、ⅢB、ⅢC)、Ⅳ期に分類されます。
サブタイプ分類は、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PgR)、HER2、Ki67の4つの要素で分類されます。ERとPgRは女性ホルモンで、この女性ホルモンに対して陽性の場合、ホルモンの刺激によってがんが増殖する性質があり、陰性の場合はホルモンには反応しません。 HER2は、がん細胞に発現しているたんぱく質で、陽性だとこの受容体に反応してがんが増殖します。 Ki67は、がんが増えようとする力の程度を示す指標で、高いほどがん細胞の増殖活性が高くなります。この4つの要素によって、5つのタイプに分類され、タイプによって薬物療法の種類が異なります。
乳がんや卵巣がんの中には、BRCA1、BRCA2の遺伝子の異常が原因で発生するものがあり、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)と呼ばれています。この遺伝子に異常があっても、必ず乳がんや卵巣がんになるわけではありませんが、発症するリスクが高くなります。
サブタイプ分類
サブタイプ分類 | ホルモン受容体 | HER2 | Ki67 | |
ER | PgR | |||
ルミナルA型 | 陽性 | 陽性 | 陰性 | 低 |
ルミナルB型 (HER2陰性) | 陽性または陰性 | 弱陽性または陰性 | 陰性 | 高 |
ルミナルB型 (HER2陽性) | 陽性 | 陽性または陰性 | 陽性 | 低~高 |
HER2型 | 陰性 | 陰性 | 陽性 | − |
トリプルネガティブ | 陰性 | 陰性 | 陰性 | − |
治験薬:アテゾリズマブ
アテゾリズマブは、抗PD-L1抗体という免疫チェックポイント阻害薬の1つです。
免疫チェックポイント阻害薬は、がんに対して、免疫細胞が本来の力を発揮できるようにする薬です。最終的には、免疫の力でがんを攻撃し、治療効果を発揮します。
がん細胞の表面に発現しているPD-L1とがん細胞を攻撃する免疫細胞(T細胞)に発現しているPD-1が結合すると、免疫細胞は、がん細胞を攻撃しなくなってしまいます。この仕組みを「免疫チェックポイント機構」といい、この仕組みが働かないように開発されたのが、免疫チェックポイント阻害薬です。

治験薬:ナブパクリタキセル
ナブパクリタキセルは、イチイ科の植物の成分から開発されたタキサン系と呼ばれる微小管阻害薬であるパクリタキセルと人血清アルブミンを結合させ、ナノ粒子化した抗がん薬です。
タキサン系は水に溶けにくいため、無水エタノール(アルコール)を含んだ液体に溶かして使用されますが、ナブパクリタキセルは、溶けやすくアルコールも使わないため、アレルギー様症状も起こりにくいという特徴があります。
薬の作用は、パクリタキセルと同様、細胞が増殖するために細胞分裂を行うときに、微小管がばらばらにならないように安定化させ過剰に形成を起こすことで、細胞分裂を阻害して抗腫瘍効果を発揮する殺細胞性の抗がん薬です。
アルコールを使わないため、投与量を多くすることができますが、その分関節痛や筋肉痛、末梢神経障害などの副作用が出やすい傾向があります。
治験薬:ドキソルビシン
ドキソルビシンは、細胞内のDNAに結合することでDNAやRNAの合成を阻害するアントラサイクリン系の殺細胞性抗がん薬です。
アントラサイクリン系抗がん薬は、DNA鎖を延長させる酵素の阻害、DNA鎖の切断作用により、DNAやRNAの合成を阻害することで、抗腫瘍効果を発揮します。
治験薬:シクロホスファミド
シクロホスファミドは、DNAに結合しDNAの複製を阻害するアルキル化剤の1つです。
アルキル基という原子が、DNAと結合した状態で細胞分裂や増殖を行うとDNAが破壊され細胞死が起こります。この作用により、抗腫瘍効果を発揮します。
主な治験参加条件
対象となる人 |
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対象とならない人 |
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パフォーマンスステータス(Performance Status:PS)
パフォーマンスステータス(Performance Status:PS)は、全身状態の指標で、患者さんの日常生活の制限の程度を示します。米国の腫瘍学の団体が決めたECOG、Karnofsky、WHOなどの基準があります。 ECOG パフォーマンスステータスPS 0 | 全く問題なく活動できる 発病前と同じ日常生活が制限なく行える |
PS 1 | 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる 例:軽い家事、事務作業 |
PS 2 | 歩行可能で自分の身の回りのことはすべて可能だが作業はできない 日中の50%以上はベッド外で過ごす |
PS 3 | 限られた自分の身の回りのことしかできない 日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす |
PS 4 | 全く動けない 自分の身の回りのことは全くできない 完全にベッドか椅子で過ごす |
出典:Common Toxicity Criteria Version2.0 Publish Date April 30, 1999 (JCOGホームページより引用)
Karnofsky パフォーマンスステータススコア | 患者の状態 | |
正常の活動が可能。特別な看護が必要ない | 100 | 正常。疾患に対する患者の訴えがない。臨床症状なし |
90 | 軽い臨床症状はあるが、正常活動可能 | |
80 | かなり臨床症状あるが、努力して正常の活動可能 | |
労働することは不可能。自宅で生活できて、看護はほとんど個人的な要求によるものである。様々な程度の介助を必要とする | 70 | 自分自身の世話はできるが、正常の活動・労働することは不可能 |
60 | 自分に必要なことはできるが、ときどき介助が必要 | |
50 | 病状を考慮した看護および定期的な医療行為が必要 | |
身の回りのことを自分できない。施設あるいは病院の看護と同等の看護を必要とする。疾患が急速に進行している可能性がある | 40 | 動けず、適切な医療および看護が必要 |
30 | 全く動けず、入院が必要だが死はさしせまっていない | |
20 | 非常に重症、入院が必要で精力的な治療が必要 | |
10 | 死期が切迫している | |
0 | 死 |
スコア | 患者の状態 |
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0 | 全く問題なく活動できる。発病前と同じ日常生活が制限無く行える |
1 | 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。たとえば、軽い家事、事務など |
2 | 歩行可能で、自分の身の回りのことはすべて可能だが、作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす |
3 | 限られた身の回りのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす |
4 | 全く動けない。自分の身の回りのことは全くできない。完全にベッドか椅子で過ごす |
5 | 死亡 |
出典:国立がん研究センター東病院「患者さん向け治験情報」より
治験情報に関する注意点
治験は、治療を兼ねた臨床試験のことです。薬の元となる物質を動物実験などで有効性や安全性を確認した上で、ヒトに対して使用しても同様に安全で治療効果が予測されるもので行われますが、治験の時点ではまだ有効性や安全性が十分に確認できているわけではありません。有効性や安全性が科学的に証明された治療が、標準治療で、新しい治療が必ずしも最良の治療ではないということを理解してください。その一方で標準治療が確立していない、または薬の耐性ができ、効果が期待できる薬がなくなった患者さんにとって治験は新しい治療選択となる可能性もあります。
治験は「ヘルシンキ宣言」に基づく倫理的原則と、「医薬品の臨床試験の実施に関する基準(GCP)」を遵守して行われています。治験実施にあたり、日本では「医薬品の臨床試験の実施に関する基準(GCP)」という厳しいルールが定められています。これにより、治験に参加される方の利益が損なわれることがないよう、安全な手続きで治験は進められます。
治験情報を探すとき、治験を受けたいと思ったときは、まず治験とはどのようなものなのかを理解してください。
がんの治験情報をお探しの方に知ってほしい5つのこと
※ここに掲載した多くの情報は、JAPIC-CTIやUMIN-CTRに登録された情報を元にし、一般の人でもわかりやすく解説しています。
試験概要詳細
試験の名称 | 原発性の浸潤性トリプルネガティブ乳癌(TNBC)患者を対象とした、術前補助療法におけるアテゾリズマブ(抗PD-L1抗体) + アンスラサイクリン/Nab-paclitaxelベースの化学療法の有効性及び安全性の検証を目的としてプラセボ + 化学療法と比較するランダム化第III相試験 |
試験の概要 | 本試験は手術可能な初発TNBC患者におけるnab-paclitaxel及びアテゾリズマブに続いてドキソルビシン及びシクロホスファミドとアテゾリズマブを併用する術前補助療法又はnab-paclitaxel及びプラセボに続いてドキソルビシン及びシクロホスファミドとプラセボを併用する術前補助療法の有効性、安全性を評価する国際共同第III相二重盲検ランダム化試験である |
疾患名 | トリプルネガティブ乳癌 |
試験薬剤名 | アテゾリズマブ+化学療法(nab-paclitaxel、ドキソルビシン、シクロホスファミド) |
用法・用量 | アテゾリズマブ (840mg、 2週間隔、 静注) を nab-paclitaxel (125mg/m2、 毎週、 静注) との併用で12週投与し、その後アテゾリズマブ (840mg、 2週間隔、 静注)とドキソルビシン (60mg/m2、 2週間隔、 静注)及びシクロホスファミド(600mg/m2、 2週間隔、 静注) の併用をフィルグラスチム/ペグフィルグラスチムの支持のもと4回投与する。 手術後、 盲検解除したアテゾリズマブ (1200mg、 3週間隔、 静注) を11回投与する |
対照薬剤名 | プラセボ+化学療法(nab-paclitaxel、 ドキソルビシン、 シクロホスファミド) |
用法・用量 | プラセボ (2週間隔、 静注) を nab-paclitaxel (125mg/m2、 毎週、 静注) との併用で12週投与し、その後プラセボ (2週間隔、 静注)とドキソルビシン (60mg/m2、 2週間隔、 静注)及びシクロホスファミド(600mg/m2、 2週間隔、 静注) の併用をフィルグラスチム/ペグフィルグラスチムの支持のもと4回投与する。 手術後は盲検解除し、経過観察を継続する |
試験のフェーズ | フェーズ3(第3相臨床試験) |
試験のデザイン | 二重盲検、ランダム化、プラセボコントロール試験 |
目標症例数 | 204 |
適格基準 |
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除外基準 |
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主要な評価項目 | 有効性/efficacy |
主要な評価方法 | pCRを得られた患者の割合(ITT及びPD-L1陽性) AJCC Staging system |
副次的な評価項目 | 安全性/safety 有効性/efficacy 検証的/confirmatory 探索性/exploratory 薬物動態/pharmacokinetics ファーマコゲノミクス/pharmacogenomics その他/other |
副次的な評価方法 | Event free survival、Disease free survival、全生存期間、QOL、安全性、アテゾリズマブのPK、アテゾリズマブに対する抗薬物抗体検査、観察 |
予定試験期間 | 2017年7月1日~2021年9月26日 |