MSI-HighまたはMMR欠損の大腸がんでペムブロリズマブと標準化学療法を比較する治験
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治験名
MSI-High又はMMR欠損の結腸・直腸癌(IV期)を対象としたMK-3475と標準化学療法を比較する第III相試験(KEYNOTE-177)
治験概要
この治験は、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)またはミスマッチ修復機構(MMR)欠損のIV期の結腸・直腸がん(大腸がん)患者さんを対象に、MK-3475(ペムブロリズマブ)単剤と、治験責任医師が選択した6つの標準化学療法のうち1つとを比較する試験です。同試験の主要仮説はMK-3475(ペムブロリズマブ)が標準化学療法と比較して、無増悪生存期間(PFS)または全生存期間(OS)を延長するというものです。
疾患解説大腸がん
国立がん研究センターがん対策情報センターの最新がん統計によると、2014年に新たに大腸がんと診断された人は、結腸がん(男性:47275人、女性:41228人)、直腸がん(男性:29443人、女性:16507人)で、計134453人でした。
大腸がんは、大腸にできる悪性腫瘍で、良性のポリープ(腺腫)ががん化するものと、正常な大腸内部の粘膜から直接発生するものがあります。大腸がんは、早期の段階ではほとんど自覚症状はなく、進行するにしたがって症状がでてきます。血便、下血、便が細くなる、便が残る感じがする(残便感)などが主な自覚症状です。がんが進行すると、貧血、便秘や下痢、お腹が張る、といった症状も出てきます。
大腸がんの発生頻度は、部位によってそれぞれ異なります。2000~2002年にかけて手術が行われた17449の大腸がん症例の報告によると、部位別発生頻度は直腸がん(26.4%)、S状結腸がん(26.4%)、上行結腸がん(13.6%)、直腸S状部がん(12.5%)、横行結腸がん(9.2%)、盲腸がん(6.5%)、下行結腸がん(4.8%)とされています。(大腸癌全国登録(大腸癌研究会)より)

また、大腸がんは、がん化した元の細胞の組織の違いによって腺がん、扁平上皮がん、腺扁平上皮がんの3種類に分類されます。このうち、多くは腺がんで、腺がんはさらに乳頭腺がん、管状腺がん、低分化腺がん、粘液がん、印環細胞がん、髄様がんの6種類に分類されます。
大腸がんのステージ分類は、壁深達度、リンパ節への転移の程度、遠隔転移の程度の3つの要素で決められます。
大腸がんの進行度分類
遠隔転移 | M0 | M1 | ||||||
リンパ節転移 | N0 | N1(N1a/N1b) | N2a | N2b/N3 | M1a | M1b | M1c | |
壁深達度 | Tis | 0 | – | – | – | Nに関係なく | ||
T1a・T1b | I | IIIA | IIIA | IIIB | IVA | IVB | IVC | |
T2 | IIIA | IIIB | IIIB | |||||
T3 | IIA | IIIB | IIIB | IIIC | ||||
T4a | IIB | IIIB | IIIC | IIIC | ||||
T4b | IIC | IIIC | IIIC | IIIC |
DNAミスマッチ修復機構の欠損と高頻度マイクロサテライト不安定性
DNAミスマッチ修復機構の欠損(dMMR:Deficient Mismatch Repair)は、DNA複製時のミスマッチエラーを修復するたんぱくが欠損または機能していない場合に生じ、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H: Micro Satellite Instability-High)の腫瘍が発生する原因となります。転移性大腸がん患者さんの約5%がこのdMMRまたはMSI-Hの腫瘍を有しているといわれます。
MSI-HまたはdMMRの固形がんでは、細胞内のDNA修復系が不十分となるため、遺伝子変異数が多くなり、それに伴いneoantigen(がん細胞独自の遺伝子変異に伴い、新たに生まれた変異抗原)の数が多いため、PD-1阻害薬が有効な可能性が高いと考えられています。MSI-HまたはdMMRの固形がんは、大腸がんや子宮内膜がん、胃腸系のがんに多いとされています。
治験薬ペムブロリズマブ
MK-3475(ペムブロリズマブ)は、抗PD-1抗体という免疫チェックポイント阻害薬の1つです。
免疫チェックポイント阻害薬は、がんに対して、免疫細胞が本来の力を発揮できるようにする薬です。最終的には、免疫の力でがんを攻撃し、治療効果を発揮します。
がん細胞の表面に発現しているPD-L1とがん細胞を攻撃する免疫細胞(T細胞)に発現しているPD-1が結合すると、免疫細胞は、がん細胞を攻撃しなくなってしまいます。この仕組みを「免疫チェックポイント機構」といい、この仕組みが働かないように開発されたのが、免疫チェックポイント阻害薬です。

主な治験参加条件
対象となる人 |
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対象とならない人 |
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ECOG パフォーマンスステータス(Performance Status:PS)
ECOG パフォーマンスステータス(Performance Status:PS)は、米国の腫瘍学の団体(ECOG)が決めた全身状態の指標で、患者さんの日常生活の制限の程度を示します。
PS 0 | 全く問題なく活動できる 発病前と同じ日常生活が制限なく行える |
PS 1 | 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる 例:軽い家事、事務作業 |
PS 2 | 歩行可能で自分の身の回りのことはすべて可能だが作業はできない 日中の50%以上はベッド外で過ごす |
PS 3 | 限られた自分の身の回りのことしかできない 日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす |
PS 4 | 全く動けない 自分の身の回りのことは全くできない 完全にベッドか椅子で過ごす |
出典:Common Toxicity Criteria Version2.0 Publish Date April 30, 1999 (JCOGホームページより引用)
治験情報に関する注意点
治験は、治療を兼ねた臨床試験のことです。薬の元となる物質を動物実験などで有効性や安全性を確認した上で、ヒトに対して使用しても同様に安全で治療効果が予測されるもので行われますが、治験の時点ではまだ有効性や安全性が十分に確認できていいるわけではありません。有効性や安全性が科学的に証明された治療が、標準治療で、新しい治療が必ずしも最良の治療ではないということを理解してください。その一方で標準治療が確立していない、または薬の耐性ができ、効果が期待できる薬がなくなった患者さんにとって治験は新しい治療選択となる可能性もあります。
治験は「ヘルシンキ宣言」に基づく倫理的原則と、日本国内では「医薬品の臨床試験の実施に関する基準(GCP) 」という厳しいルールに基づき、行われています。これにより、治験に参加される方の利益が損なわれることがないよう、安全な手続きで進められます。治験情報を探すとき、治験を受けたいと思ったときは、まず治験とはどのようなものなのかを正しく理解しましょう。
試験詳細
試験の名称 | MSI-High又はMMR欠損の結腸・直腸癌(IV期)を対象としたMK-3475と標準化学療法を比較する第III相試験(KEYNOTE-177) |
試験の概要 | 本治験は、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)又はミスマッチ修復機構(MMR)欠損のIV期の結腸・直腸癌患者を対象に、MK-3475単剤と治験責任医師が選択した6つの標準化学療法のうち1つと比較する試験である。本試験の主要仮説はMK-3475が標準化学療法と比較し、無増悪生存期間(PFS)または全生存期間(OS)を延長することである。 |
疾患名 | MSI-High又はMMR欠損の結腸・直腸癌 |
試験薬剤名 | MK-3475 |
用法・用量 | MK-3475 200mg 3週間間隔 静脈内投与 |
対照薬剤名 | mFOLFOX6 |
対照薬用法・用量 | オキサリプラチン85mg/m2を1日目に2時間かけて静脈内投与、ロイコボリン400mg/m2を1日目に2時間かけて静脈内投与、5-FU 400mg/m2を1日目に急速静注、その後5-FU 1200mg/m2/日を2日間持続静注 |
対照薬剤名 | mFOLFOX6+ベバシズマブ |
対照薬用法・用量 | オキサリプラチン85mg/m2を1日目に2時間かけて静脈内投与、ロイコボリン400mg/m2を1日目に2時間かけて静脈内投与、5-FU 400mg/m2を1日目に急速静注、その後5-FU 1200mg/m2/日を2日間持続静注及びベバシズマブ5mg/kgを1日目に静脈内投与 |
対照薬剤名 | mFOLFOX6+セツキシマブ |
対照薬用法・用量 | オキサリプラチン85mg/m2を1日目に2時間かけて静脈内投与、ロイコボリン400mg/m2を1日目に2時間かけて静脈内投与、5-FU 400mg/m2を1日目に急速静注、その後5-FU 1200mg/m2/日を2日間持続静注及びセツキシマブ初回投与は400mg/m2を2時間かけて、2回目以降は250mg/m2を1時間かけて週1回静脈内投与 |
対照薬剤名 | FOLFIRI |
対照薬用法・用量 | イリノテカン180mg/m2を1日目に30~90分かけて静脈内投与、ロイコボリン400mg/m2を1日目にイリノテカンの投与時間に合わせて静脈内投与、5-FU 400mg/m2を1日目に急速静注、その後5-FU 1200mg/m2/日を2日間持続静注 |
対照薬剤名 | FOLFIRI+ベバシズマブ |
対照薬用法・用量 | イリノテカン180mg/m2を1日目に30~90分かけて静脈内投与、ロイコボリン400mg/m2を1日目にイリノテカンの投与時間に合わせて静脈内投与、5-FU 400mg/m2を1日目に急速静注、その後5-FU 1200mg/m2/日を2日間持続静注及びベバシズマブ5mg/kgを1日目に静脈内投与 |
対照薬剤名 | FOLFIRI+セツキシマブ |
対照薬用法・用量 | イリノテカン180mg/m2を1日目に30~90分かけて静脈内投与、ロイコボリン400mg/m2を1日目にイリノテカンの投与時間に合わせて静脈内投与、5-FU 400mg/m2を1日目に急速静注、その後5-FU 1200mg/m2/日を2日間持続静注及びセツキシマブ初回投与は400mg/m2を2時間かけて、2回目以降は250mg/m2を1時間かけて週1回静脈内投与 |
試験のフェーズ | フェーズ3(第3相臨床試験) |
試験のデザイン | 2群間無作為化非盲検試験 |
目標症例数 | 300 |
適格基準 |
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除外基準 |
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主要な評価項目 | 無増悪生存期間 |
主要な評価方法 | 治験開始から57ヵ月までの無増悪生存期間を評価する |
主要な評価項目 | 全生存期間 |
主要な評価方法 | 治験開始から57ヵ月までの全生存期間を評価する |
副次的な評価項目 | 奏効率 |
副次的な評価方法 | 治験開始から57ヵ月までの奏効率を評価する |
予定試験期間 | 2016年1月~2021年4月 |