HER2発現進行大腸がんに対するトラスツズマブ デルクステカンの治験
治験名
HER2発現の進行大腸がんの患者を対象としたトラスツズマブ デルクステカンの多施設共同、非盲検、第2相試験
治験概要:
切除不能、再発または転移性の大腸がんに対する治験。RAS/BRAF遺伝子が野生型でHER2が発現している、少なくとも2レジメン以上の標準治療歴がある患者さんが対象です。
トラスツズマブ デルクステカンを3週間に1度、6.4mg/kgで点滴静注し、安全性と有効性を評価する臨床試験です。
登録予定数は、90人。
試験デザインは、非盲検、3コホート、多施設。
フェーズは、第2相臨床試験。
試験群:トラスツズマブ デルクステカンを3週間に1度、6.4mg/kg点滴静注
で主要評価項目は奏効率、副次的評価項目は無増悪生存期間、全生存率、奏功期間、病勢コントロール率、安全性、薬物動態などで評価します。
疾患解説:大腸がん
国立がん研究センターのがん統計の2014年の全国推計値によると、大腸がんに罹った人は、男性77504人、女性57930人、合計135434人で男性が多い傾向です。40代後半から徐々に増えはじめ、男性は70代をピークにその後は減少しますが、女性は、いったん70代で平行線になり、80代からさらに増加していきます。
大腸がんの発生原因は、生活習慣や身体的な特徴と関連があるといわれています。生活習慣では、喫煙、飲酒、牛・豚・羊などの赤肉の摂取、ベーコン・ハム・ソーセージなどの加工肉の摂取などです。身体的な特徴は、体脂肪率の高い人、腹部の肥満、高身長などがあります。また、家族歴や遺伝子にも関連があるといわれています。
大腸がんの症状は、早期の段階では自覚症状はなく、進行するにしたがって症状がでてきます。血便、下血、便が細くなる、便が残る感じがするなどの症状がでます。排便に伴う自覚症状が多く、特に便に血が混じる血便や腸内のがんからの出血による赤色の便、もしくは赤黒い便、便の表面に血液が付着する下血が多く現れます。しかし、血便や下血は痔の症状でもみられるため、必ずしも大腸がんの症状とはかぎりません。
大腸は、小腸から続く約2mの消化管です。口側から「虫垂」、「盲腸」、「結腸」、「直腸S状部」、「直腸」で構成され、括約筋がある肛門管に続きます。結腸は、盲腸から上に向かう「上行結腸」、左上腹部へ向かう「横行結腸」、S状結腸に向かって下る「下行結腸」、S状のカーブを描く「S状結腸」に区別されています。さらに、S状結腸と直腸の間を「直腸S状部」、直腸の上部を「上部直腸」、下部を「下部直腸」に区別されます。大腸がんのそれぞれの部位で発生頻度は異なります。2000~2002年にかけて大腸がん手術を行った17449の症例報告から、大腸がんの部位別発生率では、直腸がんとS状結腸がんが多くなっています。
大腸がんは、がん化した元の細胞の組織の違いによって、腺がん、扁平上皮がん、腺扁平上皮がんの3種類に分類されます。3つのうち、多くは腺がんで、腺がんはさらに6種類に分類されます。
大腸がんは、内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜の5つの層で構成されており、大腸がんは、一番内側の粘膜から発生し進行するほど外側の層へ浸潤していきます。この5つの層のどこまでがんが広がっているかを示すのが深達度です。深達度は6段階に分類されます。
大腸がんのステージ分類は、この深達度にリンパ節への転移の程度、遠隔臓器への転移の程度で決定されます。
大腸の部位別発生頻度
大腸の部位 |
発生頻度 |
直腸がん |
26.4% |
S状結腸がん |
26.4% |
上行結腸がん |
13.6% |
直腸S状部がん |
12.5% |
横行結腸がん |
9.2% |
盲腸がん |
6.5% |
下行結腸がん |
4.8% |
大腸癌全国登録(大腸癌研究会)より作成
大腸がんの進行度分類
遠隔転移 |
M0 |
|
M1 |
リンパ節転移 |
N0 |
N1(N1a/N1b) |
N2a |
N2b/N3 |
M1a |
M1b |
M1c |
壁深達度 |
Tis |
0 |
– |
– |
– |
Nに関係なく |
T1a・T1b |
I |
IIIA |
IIIA |
IIIB |
IVA |
IVB |
IVC |
T2 |
IIIA |
IIIB |
IIIB |
T3 |
IIA |
IIIB |
IIIB |
IIIC |
T4a |
IIB |
IIIB |
IIIC |
IIIC |
T4b |
IIC |
IIIC |
IIIC |
IIIC |
大腸癌取扱い規約(第9版)より作成
治験薬:トラスツズマブ デルクステカン
トラスツズマブ デルクステカンは、HER2を標的とするトラスツズマブと細胞障害性のトピイソメラーゼ阻害薬のデルクステカンを結合させた抗体薬物複合体です。
トラスツズマブは、HER2たんぱくやHER2遺伝子の増殖があるがんで、HER2を標的として阻害し、がんの増殖を抑制します。
デルクステカンは、細胞の増殖にかかわる2つのトポイソメラーゼのうちI型の酵素を阻害することでがん細胞の増殖を抑制します。強力な細胞障害性があるデルクステカンをトラスツズマブと結合させることで、HER2が発現しているがんに選択的に送り届け、有害性を最小限に抑えながら抗腫瘍効果を発揮します。
トラスツズマブ デルクステカンは、トラスツズマブがHER2を抑制し、抗体が免疫細胞を呼び寄せ抗体が結合している細胞を殺傷する抗体依存性細胞障害作用を誘導します。さらに、トラスツズマブとの結合により、選択的に運ばれたデルクステカンが細胞障害作用を発揮することで抗腫瘍効果を高めます。
主な治験参加条件
対象となる人 |
- 日本で年齢20歳以上、他の国で年齢18歳以上
- 切除不能、再発、または転移性の大腸腺がんであることが確認されている。被験者はRAS/BRAF野生型でなくてはならない
- 少なくとも2 レジメン以上の標準治療による治療歴がある
- 治験責任医師などによって測定可能病変があると判断された者
- 全身状態(Performance Status:PS)が0または1
- 年齢:18歳以上(日本人は20歳以上)
- 性別:両方
|
対象とならない人 |
- 6か月以内の心筋梗塞、症候性うっ血性心不全がある患者
- 臨床的に問題となる肺疾患の既往歴/合併症がある
- 骨髄圧迫または無治療で臨床症状を伴う、あるいは治療を必要とする活動性の脳転移がある患者
|
パフォーマンスステータス(Performance Status:PS)
パフォーマンスステータス(Performance Status:PS)は、全身状態の指標で、患者さんの日常生活の制限の程度を示します。米国の腫瘍学の団体が決めたECOG、Karnofsky、WHOなどの基準があります。
ECOG パフォーマンスステータス
PS 0 |
全く問題なく活動できる 発病前と同じ日常生活が制限なく行える |
PS 1 |
肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる 例:軽い家事、事務作業 |
PS 2 |
歩行可能で自分の身の回りのことはすべて可能だが作業はできない 日中の50%以上はベッド外で過ごす |
PS 3 |
限られた自分の身の回りのことしかできない 日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす |
PS 4 |
全く動けない 自分の身の回りのことは全くできない 完全にベッドか椅子で過ごす |
出典:Common Toxicity Criteria Version2.0 Publish Date April 30, 1999 (JCOGホームページより引用)
Karnofsky パフォーマンスステータス
|
スコア |
患者の状態 |
正常の活動が可能。特別な看護が必要ない |
100 |
正常。疾患に対する患者の訴えがない。臨床症状なし |
90 |
軽い臨床症状はあるが、正常活動可能 |
80 |
かなり臨床症状あるが、努力して正常の活動可能 |
労働することは不可能。自宅で生活できて、看護はほとんど個人的な要求によるものである。様々な程度の介助を必要とする |
70 |
自分自身の世話はできるが、正常の活動・労働することは不可能 |
60 |
自分に必要なことはできるが、ときどき介助が必要 |
50 |
病状を考慮した看護および定期的な医療行為が必要 |
身の回りのことを自分できない。施設あるいは病院の看護と同等の看護を必要とする。疾患が急速に進行している可能性がある |
40 |
動けず、適切な医療および看護が必要 |
30 |
全く動けず、入院が必要だが死はさしせまっていない |
20 |
非常に重症、入院が必要で精力的な治療が必要 |
10 |
死期が切迫している |
0 |
死 |
WHO パフォーマンスステータス
スコア |
患者の状態 |
0 |
全く問題なく活動できる。発病前と同じ日常生活が制限無く行える |
1 |
肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。たとえば、軽い家事、事務など |
2 |
歩行可能で、自分の身の回りのことはすべて可能だが、作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす |
3 |
限られた身の回りのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす |
4 |
全く動けない。自分の身の回りのことは全くできない。完全にベッドか椅子で過ごす |
5 |
死亡 |
出典:国立がん研究センター東病院「患者さん向け治験情報」より
治験情報に関する注意点
治験は、治療を兼ねた臨床試験のことです。薬の元となる物質を動物実験などで有効性や安全性を確認した上で、ヒトに対して使用しても同様に安全で治療効果が予測されるもので行われますが、治験の時点ではまだ有効性や安全性が十分に確認できているわけではありません。有効性や安全性が科学的に証明された治療が、標準治療で、新しい治療が必ずしも最良の治療ではないということを理解してください。その一方で標準治療が確立していない、または薬の耐性ができ、効果が期待できる薬がなくなった患者さんにとって治験は新しい治療選択となる可能性もあります。
治験は「ヘルシンキ宣言」に基づく倫理的原則と、「医薬品の臨床試験の実施に関する基準(GCP)」を遵守して行われています。治験実施にあたり、日本では「医薬品の臨床試験の実施に関する基準(GCP)」という厳しいルールが定められています。これにより、治験に参加される方の利益が損なわれることがないよう、安全な手続きで治験は進められます。
治験情報を探すとき、治験を受けたいと思ったときは、まず治験とはどのようなものなのかを理解してください。
がんの治験情報をお探しの方に知ってほしい5つのこと
※多くの情報は、出典であるJAPIC-CTIやUMIN-CTRに情報がある場合はそこから、転載しています。
※ここに掲載した情報は、JAPIC-CTIやUMIN-CTRに登録された情報を元にし、一般の人でもわかりやすく解説しています。そのため、すべて情報を網羅しているものでも、情報に誤りがある場合もあります。
試験概要詳細
試験の名称 |
HER2発現の進行大腸癌の患者を対象としたDS-8201aの多施設共同、非盲検、第II相試験 |
試験の概要 |
HER2発現の進行大腸癌患者を対象としてDS-8201a安全性及び有効性を検討する |
疾患名 |
大腸癌 |
試験薬剤名 |
trastuzumab deruxtecan |
用法・用量 |
点滴静注(3週間に1度、6.4mg/kg) |
試験のフェーズ |
フェーズ2(第2相臨床試験) |
試験のデザイン |
非盲検、3コホート、多施設 |
目標症例数 |
90 |
適格基準 |
- 日本で年齢20歳以上、他の国で年齢18歳以上
- 病理診断により切除不能、再発、又は転移性の大腸腺癌であることが確認されている。治験依頼者から実施医療機関への連絡があるまで、被験者はRAS/BRAF野生型でなくてはならない
- 少なくとも2レジメン以上の標準治療による治療歴がある
- RECIST ver. 1.1に基づき、治験責任医師等によって測定可能病変を有すると判断された者
- ECOG PSが0又は1
- 年齢:18歳以上(日本人は20歳以上)
- 性別:両方
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除外基準 |
- 6ヵ月以内の心筋梗塞、症候性うっ血性心不全を有する患者
- 臨床的に問題となる肺疾患の既往歴/合併症を有する
- 骨髄圧迫又は無治療で臨床症状を伴う、あるいは治療を必要とする活動性の脳転移を有する患者
|
主要な評価項目 |
奏効率 |
主要な評価方法 |
RECIST version 1.1 |
副次的な評価項目 |
無増悪生存期間、全生存期間、奏効期間、病勢コントロール率、安全性、薬物動態 |
副次的な評価方法 |
RECIST version 1.1 |
予定試験期間 |
2017年12月1日~2019年12月31日 |
出典:医薬品情報データベースiyakuSearchより