切除できる肝臓がん、がんの数・大きさ・位置と肝機能を考慮した手術とは

石沢武彰先生
監修:がん研有明病院消化器センター肝胆膵外科副医長 石沢武彰先生

2017.12 取材・文:柄川昭彦

 肝臓がんの切除手術が可能かどうかは、「肝臓の機能」と「がんの数・大きさ・位置」によって決まります。手術後に十分な肝機能を残さなければならないからです。また、肝臓がんの手術では、根治性を高めるため、枝分かれしていく血管(門脈)の広がりを考慮した「解剖学的切除」が行われます。最近は腹腔鏡下手術による肝臓切除も、かなり行われるようになっています。また、がんを光らせた状態にする蛍光イメージングは、肝臓がん手術の安全性と確実性を高めるのに役立っています。

肝機能を考慮した肝臓がんの手術とは

 肝臓がんの手術が可能かどうかを判定するには、2つの要素を考える必要があります。1つが「肝臓の機能」で、もう1つが「がんの数・大きさ・位置」です。

 ほとんどの肝臓がん患者さんは、肝臓の機能が低下しているため、すべてのがんを切除した残りの肝臓自体の機能が十分でなければ、切除することはできません。そのため、肝臓の機能を考慮する必要があります。健康で高い機能を維持している肝臓なら、大きく切除することができますが、機能が低下している場合には、切除できる範囲が小さくなります。

 肝機能を調べる基本的な検査は血液検査です。肝臓はたんぱく質を作っているため、血液中のアルブミン(たんぱく質の一種)の量を調べること、血液の固まりやすさである凝固能の指標となるプロトロンビン活性値をみることで肝機能の状態がわかります。

 これに加え、ICG(インドシアニングリーン)という検査薬を使った「ICG停滞率テスト」を行います。静脈に注射したICGは、すべてが肝臓に取り込まれ、胆汁として排泄されます。そこで、体重に見合った量のICGを注射し、15分後に血液を採取して、どれだけ肝臓が排泄できたかを調べます。肝機能が低下しているほど、肝臓での取り込みと排泄が遅れるため血液中の量が高いままになります。ICGが体内に残っている割合が10%未満なら肝機能が正常であるため、肝臓を3分の2まで切除することができます。10~19%なら3分の1程度、20~30%未満なら、6分の1、30%以上では、がんしか切除することはできません。

 がん研有明病院では、「肝受容体シンチグラフィー」という検査も行っています。肝臓に取り込まれる性質を持つ物質に放射性同位元素の標識をつけ、静脈に注射します。その後、その物質が肝臓に取り込まれていく様子を、特殊なカメラで撮影し、肝臓の機能を調べます。肝機能が低いほど、取り込まれる量が少なくなります。

手術可能かどうかの判定に必要な「がんの数・大きさ・位置」

 もう1つの要素は、「がんの数・大きさ・位置」です。

 ガイドラインでは、切除手術が推奨されるのは、がんが「1~3個」の場合で、「4個以上」の場合には他の治療が推奨されています。これが基準ですが、例外もあります。がんが多発している場合、2通りのことが考えられます。肝臓のいろいろな部位に同時多発的にがんができている場合には、それぞれが独立して発生してきたと考えられます。手術してそれぞれのがんを取り除いても、他の部位から発生してくる可能性が高いため、特に肝機能が悪い患者さんでは手術以外の治療法の方が適している場合があります。しかし、中心的ながんがあり、その周囲に飛び火したようにがんが多発していることもあります。このようなケースなら、がんが4個以上あっても、まとめて取り切れることがあります。

 がんの大きさに関しては、「3cm以内」の場合には、ラジオ波焼灼療法と手術のどちらかの選択になります。小さながんであれば、ラジオ波焼灼療法でも高い治療効果が期待できますが、がんの一部が生き返って再発したり、針のルートからがん細胞がこぼれて播種したりする危険もあります。手術とラジオ波焼灼療法のメリット・デメリットを明らかにするために、現在、前向きの臨床試験が進められています。

 がんのできている部位に関しては、がんが肝臓の深いところにあるほど、手術に伴って取り除かれる肝臓の量が多くなります。そのため、肝臓の機能がよくない場合には、切除するのが難しくなることがあります。また、がんが主要な血管などに入り込む脈管侵襲があると、それによって手術ができないことがあります。

十分な肝機能を残せない場合には手術は行わない

 切除手術を行えるかどうかは、慎重に検討する必要があります。まず、ICG停滞率テストなどで「肝臓の機能」を明らかにし、肝臓を何%まで切除できるかを計算します。次に、「がんの数・大きさ・位置」から、手術した場合にどれだけ肝臓を切除する必要があるか求めます。最近は3D-CTを使うことで、肝臓の何%を切除する必要があるのか、正確に計算できるようになっています。

 この2つの数値から、切除手術が可能であるかどうかを判定します。ここまでなら切除可能という範囲内で手術ができるのでれば、手術が勧められますが、切除できる肝臓容量の範囲を超えている場合には、手術は勧められません。そのまま手術を行ってしまうと、生きていくのに必要な肝機能を残せないからです。手術後に生命維持に必要な肝機能を果たせない状態を「肝不全」と呼び、手術関連死亡の最大の原因となっています。

根治性を高めるために行われる解剖学的切除

 肝臓がんの切除手術では、がんの周囲をやみくもに切るのではなく、肝臓の解剖学的特徴に基づいて切除するのが基本となっています。肝臓がんは、門脈という血管に沿って広がる性質を持っているからです。肝臓に入った門脈は、枝分かれして肝臓全体に広がって行きますが、枝ぶりによって8つの部分(区域)に分けられます。その区分に従って、がんを含む区域をそっくり切除すると、門脈に沿って広がっている可能性がある微小ながんまで取り除けます。それにより根治性を高めることができます。このような肝臓がんの手術を解剖学的切除といいます。

 たとえば、がんが7番の区域にあれば、その区域を切除します。がんが6番と7番の両方にかかっている場合には、6番と7番を切除します。がんの部位によっては、1つの区域を部分的に切除することもあります。一方、肝臓の機能が不十分な場合には、門脈の枝を全部切除するよりも、逆に手術後なるべく多くの枝を残すことを優先して、解剖学的でない部分切除が選択されることもあります。

肝臓の基本構造

肝臓がんの腹腔鏡下手術のメリットは

 肝臓がんの手術は難易度が高い手術ですが、腹腔鏡下手術も行われるようになっています。腹腔鏡下手術に健康保険が適用されるのは、かつては手術しやすい部位の肝臓がんだけでしたが、2016年からは、解剖学的切除にも腹腔鏡下手術が保険適用されました。一定の安全性が確認されたためです。

 ただし、すべての肝臓がんの手術が、腹腔鏡下手術で安全・確実に行えるというわけではありません。がん研有明病院の場合、腹腔鏡下手術の対象を慎重に検討しているので、その割合は肝臓のがんの手術(肝細胞がんだけでなく転移がんを含む)の4分の1弱です。

 腹腔鏡下手術と開腹手術は、アプローチの方法が違うだけで、肝臓に対して行うことは基本的に同じです。腹腔鏡下手術のほうが、がんが治りやすいというわけではありません。腹腔鏡下手術が無理なく安全に行えるのであれば、傷が小さい、痛みが軽い、回復に要する期間が短い、といったメリットがあります。

安全性と確実性を高める「蛍光イメージング手術」

 肝臓がんの安全性と確実性を高めるため、がんを光らせて手術する「蛍光イメージング」という技術があり、実際の治療で利用されるようになっています。

 がん細胞を光らせるために使われるのは、肝機能の検査で使われているICGです。ICGには近赤外線を当てると光る性質があります。胆管の手術のために胆管を光らせる研究を進めていたところ、肝臓に近赤外線を当てると肝臓にあるがん細胞が光って見えました。この患者さんは数日前に肝機能検査でICGを注射しており、それが肝臓がんに取り込まれて残っていたのです。

 静脈に注射したICGは、そのすべてが肝臓に取り込まれ、胆汁として胆管を通って排出されます。肝臓の細胞は、ICGを取り込み、胆汁として排出する機能をもっています。肝臓の細胞から発生した肝臓がんの細胞は、ICGを取り込む能力は持っていますが、排出する能力はなかったため、がん細胞の中にICGが蓄積し、近赤外線を当てると光ることがわかりました。

 光が透過するのは8mm程度のため、肝臓の浅いところにあるがんは、表面からでも光って見えます。がんの位置は手術前にCTなどで確認しますが、手術時にどこにあるのか分かりにくいことがしばしば経験されます。そのような場合に、がん自ら光を発して位置を示してくれるのは便利です。また、がんの取り残しを防ぐのにも役立ってくれます。肝臓の浅いところにあるがんは、表面を手で触れることで、どこにがんがあるのかがある程度わかります。ところが、腹腔鏡下手術では、肝臓に直接触れることができないため、繊細な指先の触感を利用することができません。そのような場合でも、がんが光ってくれていれば、触感を補うことができます。そういう意味で、蛍光イメージングは、腹腔鏡下手術で特に有用性が高いといえます。

蛍光イメージング手術
肝区域S3にある肝細胞がんに対する腹腔鏡下肝切除。肝細胞がんと、残すべき肝区域S2がICGの蛍光(緑色)を示しています。

 蛍光イメージングは、解剖学的切除を行う場合に、ある区域の場所を示すのにも使われています。一般的には、切除する区域に流れ込んでいる門脈に青色の色素を注入し、肝臓が青く染まることで、切除すべき範囲を明らかにします。しかし、その色は1~2分で消失してしまうことが問題でした。がん研有明病院では、青色色素にわずかなICGを加えて注入し、青色が消失した後でもその区域を光らせながら正確な解剖学的切除ができるように工夫しています。蛍光イメージングは、手術の安全性と確実性を高めるため、現在、さまざまな研究が進められています。

プロフィール
石沢武彰(いしざわたけあき)

2000年 千葉大学医学部卒業
2008年 社会保険中央総合病院
2009年 東京大学大学院 医学系研究科 修了(医学博士)
東京大学医学部附属病院 肝胆膵外科 助教
2011年 Institut Mutualiste Montsouris (Paris) fellow
2013年 東京大学医学部附属病院 肝胆膵・人工臓器移植外科特任講師
2014年 がん研有明病院 消化器外科 副医長