【週刊】がんプラスPickupニュース(2025年10月14日)

2025/10/14

文:がん+編集部

重粒子線がん治療の「量子メス」開発で技術的進歩、必要なイオン数を10倍増加

 量子科学技術研究開発機構は2025年9月27日、がん重粒子線治療の治療装置について大幅な小型化を目指す「量子メス」開発プロジェクトにおいて、がん細胞を確実に破壊するために必要な「イオン」を10倍増加させる技術の実証に成功したと発表しました。

 重粒子線治療は身体への負担が小さく、治癒後の社会復帰が容易な治療法として注目されています。しかし現在の重粒子線がん治療装置は大規模な加速器が必要で、建屋だけで60m×45m程度の巨大な施設となるため、全国への普及が困難でした。日本では7施設で年間約4,000人しか治療を受けられず、これは新規がん患者さんのわずか0.4%に過ぎません。

 量子メスプロジェクトでは、既存の加速器をコンパクトなレーザー加速装置に置き換えることで、治療装置を約40分の1(面積比)に小型化することを目指しています。これが実現すれば、既存の建物内に設置でき、建設費や運用費を大幅に削減できます。

 今回の研究では、レーザーで生成したイオンの速度を揃える「位相回転空胴」という装置を導入し、実用的に使えるレベルである10Hz運転により、量子メス治療に必要な個数(10億個)に到達する見通しが得られました。この技術により、重粒子線がん治療がより身近な治療選択肢となり、多くの患者さんが高品質な治療を受けられるようになることが期待されます。

エンハーツ、HER2陽性乳がんの術前療法後治療で既存薬を上回る良好な結果

 第一三共株式会社は2025年9月29日、術前療法後のHER2陽性乳がん患者さんを対象としたトラスツズマブ デルクステカン(製品名:エンハーツ、以下、T-DXd)の国際第3相臨床試験(DESTINY-Breast05)において、主要評価項目で統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示したと発表しました。

 この試験は、術前療法後に乳房または腋窩リンパ節浸潤性残存病変を有する再発リスクの高いHER2陽性乳がん患者さん1,635人を対象に実施されました。T-DXdの有効性と安全性を、既存の標準治療薬であるトラスツズマブ エムタンシン(製品名:カドサイラ、以下、T-DM1)と比較して評価しました。

 主要評価項目である無浸潤疾患生存期間(浸潤性病変の再発がなく生存している期間)において、T-DXd投与群はT-DM1投与群に対し優れた結果を示しました。安全性については新たな懸念は認められず、T-DXdの他の試験と同様の傾向でした。

 同社は術前療法後のHER2陽性乳がん患者さんへ新たな治療選択肢を提供できるよう、承認申請に向けた準備を進めています。

小細胞肺がん、全身状態不良でも化学免疫複合療法が有効と判明

 新潟大学は2025年9月29日、全身状態が不良で日常生活に制限のある小細胞肺がん患者さんにおいても、免疫チェックポイント阻害薬と抗がん薬の併用療法(化学免疫複合療法)が安全かつ有効であることを実証したと発表しました。

 小細胞肺がんは比較的抗がん薬や放射線治療が効きやすい腫瘍ですが、進行に伴って体力が落ち、日常生活が困難になってしまった患者さんに対して免疫療法を安全に使用できるかは不明でした。

 今回の研究では、日常生活活動度(PS)が2~3の進展型小細胞肺がん患者さん57人を対象としました。PSは全身状態の指標で、PS2は「歩行可能だが作業はできない」、PS3は「限られた身のまわりのことしかできない」状態を指します。

 治療では、免疫チェックポイント阻害薬「デュルバルマブ(イミフィンジ)」と抗がん薬「カルボプラチン」「エトポシド」を併用し、強い副作用を避けるため用量を個々の患者さんごとに調整しました。

 その結果、PS2患者さんの67%、PS3患者さんの50%が治療を完了し、51%でがんが縮小しました。全生存期間は全体で9.0か月、PS2では11.3か月と良好で、55%の患者さんで日常生活が改善しました。

 この研究により、全身状態が悪化した小細胞肺がん患者さんにも新たな治療選択肢が広がると期待されます。