血液中の肺がん遺伝子異常を調べる技術「EGFRリキッド」を開発

2019/07/25

文:がん+編集部

 血液中の肺がん遺伝子の異常を調べる高感度技術が開発され、厚労省に承認申請されました。

従来の肺生検との比較試験で良好な結果を確認

 奈良先端技術大学院大学は7月10日、血液中に存在する微量の肺がん遺伝子変異を検出する「高感度技術EGFRリキッド遺伝子解析ソフトウェア」(以下EGFRリキッド)を開発したことを発表しました。同大先端科学技術研究科バイオサイエンス領域疾患ゲノム医学研究室の加藤菊也教授と大阪国際がんセンター呼吸器内科、呼吸器外科との共同研究をもとに、株式会社DNAチップ研究所が開発。同日、DNAチップ研究所が厚生労働省に承認申請を行いました。承認されれば、医療現場で使用することができるようになります。

進行性肺がん治療には、イレッサ、タルセバ等の上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)が広く使われています。しかし、これらの薬剤はEGFR遺伝子に特定の変異がある場合に限られるため、進行肺がん治療にはコンパニオン診断を行い、EGFR変異検査をするのが必須となっています。この検査では肺生検でがん組織を採取しますが、肺がんの場合、他の臓器がんに比べてがん細胞の採取が難しいうえ侵襲性も高く、再発や転移巣ではさらに難しくなります。そのため、非侵襲で行うことができる検査の開発が期待されていました。

 EGFRリキッドは、血液中に遊離した極微量のがん細胞のDNAを検出し、次世代シークエンサー技術(NGS)で遺伝情報を解析します。次世代シークエンシング技術は遺伝情報を解析する強力な技術で、個人の全ゲノム配列(全遺伝情報)でも低コストで得ることができます。個人の全ゲノム解析をする代わりに、肺がん患者血液中のEGFR遺伝子断片のみを多数(実際には5万分子以上)解析して変異を探索すれば、変異が低頻度でも検出することが可能です。従来の技術では、5%の変異がないと検出できませんでしたが、NGSを応用した場合、例えば1万分子解析すれば0.01%の変異でも検出できることになります。

 この新技術が実際に使えるかを確かめるため、2013~2015年、肺がん患者を対象に試験を実施。288人の肺がん患者さんについて、肺がんの組織生検と新しい血液検査を行い比較したところ、「十分実地臨床で使用可能」との成績が得られました。しかし当時は、次世代シークエンサーの薬事行政上の取り扱いが定まっておらず、承認申請に至る独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)との協議が難航。徐々に次世代シークエンサーの医療上の重要性が理解されるようになったことから、2017年にPMDAとの協議が再開されました。この検出技術に関する追加データについて議論がなされ、主要な追加実験は、同一検体(肺がん組織)を用いた従来法と本技術の比較であるとされました。2018年に比較実験が行われ、良好な結果を得られたため、承認申請の了解が得られました。

 奈良先端科学技術大学院大学、大阪国際がんセンター、DNAチップ研究所の共同研究では、さらに高感度の遺伝子検査パネルを開発中。EGFRのほかにALK、ROS1、BRAFの3つの遺伝子が対象で、2020年内の完成を目指すとしています。