「肝硬変から肝細胞がんにならない」新治療の開発へ
2019/12/12
文:がん+編集部
肝細胞がんの発生に関与する因子(βカテニン)の活性化を抑制するタンパク質「TFF1」の作用が解明されました。がん発生リスクの高い肝硬変患者さんへの応用に期待されます。
肝細胞がんの発生を防ぐタンパク質「TFF1」の作用が解明される
名古屋大学は11月22日、胃の粘膜で産生される細胞外分泌タンパク質「TFF1」に、肝細胞がんの発生を防ぐ作用があることを明らかにしたと発表しました。同大大学院医学系研究科腫瘍外科学の梛野正人教授、落合洋介大学院生、同大医学部附属病院消化器外科一の山口淳平助教らの研究グループによるものです。
肝細胞がんは、慢性肝炎や肝硬変の肝臓から発生することが知られています。しかし、こうした肝細胞がん患者さんでは、肝機能が悪く手術ができない場合も少なくありません。そのため、肝硬変から肝細胞がんにならないようにすることが重要ですが、これまでその方法は見つかっていませんでした。
研究グループは、胃がんの発生を防ぐといわれているタンパク質「TFF1」に着目。肝臓でも同様の作用があるかを実験で追求しました。肝細胞がんのがん細胞にTFF1タンパク質を強制的に産生させたところ、がん細胞の分裂や増殖スピードが弱まり、細胞死が頻繁に起こることが明らかになりました。なぜ、このような変化が起こるかを検討したところ、TFF1を産生するがん細胞では、肝細胞がんの発生に関与する重要な因子の1つであるβカテニンの活性化が抑えられていることが判明しました。また、ヒトの肝細胞がんではTFF1タンパク質が産生されないようにDNAのメチル化が起きていることも明らかになりました。
実験のようにがん細胞に強制的にTFF1を発生させることは困難ですが、TFF1タンパク質そのものをがん細胞に投与することは可能です。TFF1タンパク質を肝がん細胞に投与することで、Wnt経路と呼ばれる発がん経路を遮断することができることも判明しました。TFF1タンパク質を、肝硬変患者さんに投与することで、肝細胞がんの発生を予防する可能性があることになります。
研究グループは今後の展開として次のように述べています。「今後、TFF1 タンパクを用いた治療法の開発を目標としています。タンパクを投与すると言っても薬の内服、注射、点滴などさまざまな方法があり、どのような投与方法が効果的なのか検討中です。また、タンパク質の構造を改良することでさらに強力な肝細胞癌予防効果を発揮できる可能性もあり、現在も精力的に研究を展開しています」