世界初の脳腫瘍に対する治療用ウイルス「G47Δ」の実用化へ最終段階
2021/01/26
文:がん+編集部
がん治療用ヘルペスウイルス「G47Δ」(ジーよんじゅうななデルタ)(一般名:テセルパツレブ)が、膠芽腫患者さんを対象とした医師主導試験で高い治療効果と安全性が確認されたため、「悪性神経膠腫」を適応症とする承認申請が昨年行われ、実用化に向け最終段階に到達しました。
「G47Δ」、がん細胞だけを破壊し、正常細胞を傷つけない第3世代のがんウイルス療法
東京大学医科学研究所は1月5日、がん治療用ヘルペスウイルス「G47Δ」を「悪性神経膠腫」を適応症とする販売承認申請を行い、実用化へ向け最終段階に到達したことを発表しました。今回の研究成果は、同大学医科学研究所附属病院脳腫瘍外科(東京大学医科学研究所附属先端医療研究センター先端がん治療分野)の藤堂具紀教授らの研究グループによるものです。
がんのウイルス療法では、がん細胞でのみ増殖し、正常細胞では増殖しないように遺伝子を組み換えたウイルスが使用されます。がん細胞に感染したウイルスは、がん細胞で増殖する過程で、がん細胞だけを死滅させ、さらに増殖したウイルスは周囲にあるがん細胞に感染し、次々にがん細胞を破壊します。
G47Δは、単純ヘルペスウイルス1型の3つのウイルス遺伝子を人工的に改変してつくられた第3世代の治療用ウイルスです。単純ヘルペスウイルス1型とは、口唇に水泡ができる口唇ヘルペスの原因ウイルスのことで、ヒトのあらゆる細胞に感染できること、細胞殺傷能力が強いこと、抗ウイルス薬で治療を中断できること、ウイルスの抗体があっても治療効果が弱くならないことなど、がん治療に有利な特徴があります。
また、G47Δは、がん細胞を破壊する過程で、がん細胞を攻撃する免疫を刺激することから、投与部位以外にあるがん細胞にも効果が期待でき、さらに、がん幹細胞も効率的に破壊できることがわかっています。
G47Δを評価したファースト・イン・ヒューマン臨床試験は、2009年から5年間、膠芽腫を対象に臨床研究として同大学で実施され、安全性が確認されました。次に有効性を評価するための第2相臨床試験が、2015年~2020年まで、医師主導治験として実施され、高い治療効果と安全性が確認されました。
G47Δは、あらゆる固形がんに有効なことが動物実験で確認されています。2013年から前立腺がんと嗅神経芽細胞腫を対象とした臨床試験が行われており、2018年からは悪性胸膜中皮腫の患者さんの胸腔内にG47Δを投与する臨床試験も開始されています。今後、他の固形がんに対する治療法としても期待されています。