前立腺がんの増殖、高脂肪食による腸内フローラの変化との関連を動物実験で解明
2021/06/15
文:がん+編集部
高脂肪食マウスに抗生物質を投与して腸内フローラを変化させると、前立腺がんの増殖が抑制されるメカニズムが動物実験により解明されました。前立腺がんの予防や新たな治療につながる研究成果です。
腸内フローラをターゲットとした、前立腺がんの予防や治療法の開発に期待
近畿大学は5月27日、腸内フローラが変化すると前立腺がんの増殖が抑制されるメカニズムを動物実験により解明したことを発表しました。同大医学部泌尿器科学教室の藤田和利准教授らの研究グループと、大阪大学大学院医学系研究科との共同研究によるものです。
前立腺がんは、近年の高齢化とともに発症数が増加し、国内では男性で最も多いがんとなっています。食生活と密接に関連するがんでもあり、日本における近年の罹患率上昇は、高脂肪食を特徴とする欧米型食生活の普及が一因であるといわれています。
一方、腸内フローラやその代謝産物は、大腸がんなどのさまざまな疾患に関与することが最近報告されており、新たな治療ターゲットとして脚光を浴びています。前立腺がん患者さんは特異な腸内フローラを持つことが報告されており、前立腺がんとの関連が示唆されてきましたが、そのメカニズムは明らかになっていませんでした。
研究グループはこれまでに、前立腺がんモデルマウスに高脂肪食を投与して肥満になると、前立腺がん増殖が促進されることを報告しています。今回の研究も、高脂肪食を与えたマウスで検証されました。マウスに抗生物質を投与すると、短鎖脂肪酸を作る腸内細菌が減少し、便中の短鎖脂肪酸量も減少。それが宿主であるマウスに作用し、血中と前立腺がん中のホルモン「IGF-1」が低下しました。これらのマウスに短鎖脂肪酸を補充すると、血中のIGF-1は増加し、前立腺がんの増殖が促進されました。このことから、腸内細菌の産生する短鎖脂肪酸が、IGF-1を介して前立腺がん細胞の増殖を促進することが明らかになりました。短鎖脂肪酸は、大腸で腸内細菌により産生され、大腸がんの予防効果や糖尿病や肥満の予防効果が報告されている脂肪酸です。
また、肥満の前立腺がん患者さんから全摘された標本でIGF-1の発現を調べたところ、太っていない患者さんと比べて肥満患者さんの標本ではIGF-1が増加しており、マウスと同様のメカニズムが存在することが示唆されました。
研究グループは次のように述べています。
「本研究成果は、腸内フローラをターゲットとした、前立腺がんの新規予防法・治療法の開発につながると期待されます」