新型コロナウイルス抗体量、がん患者さんは健常人より低い
2021/06/10
文:がん+編集部
がん患者さんの新型コロナウイルス抗体の保有状況と抗体量の関連について、国立がん研究センターが調査結果を発表しました。
新型ウイルス抗体量、細胞障害性抗がん剤では低く、免疫チェックポイント阻害薬では高い
国立がん研究センターとシスメックスは6月2日、がん患者さんの新型コロナウイルス罹患状況とリスクを評価するため、2020年8月から10月にかけてがん患者さん500人と健常人1,190人について新型コロナウイルスの抗体保有率と抗体量を調査した結果を発表しました。
がん患者さんは、高齢者が多く合併症の割合が高いこと、がん治療によって免疫が一時的に低下することから、新型コロナウイルスに罹患するリスクや、罹患した場合の重篤化が懸念されています。しかし、がん患者さんと健常人の新型コロナウイルス抗体保有率や抗体量を比較した大規模研究は世界的にも少なく、がん患者さんは健常人と比較し抗体保有率が高いのか、がん治療と抗体量に関連があるのかは十分にわかっていませんでした。
今回、同研究センターの中央病院に通院している患者さんと、同研究センターの職員の新型コロナウイルスの抗体保有率と抗体量をシスメックスと共同開発した抗体検出薬を使用して測定。調査の結果、抗体保有率は、がん患者さん0.4%、健常人0.42%でいずれも低く、差がないことがわかりました。しかし、抗体量を比較したところ、がん患者さんは健常人と比較し抗体量が低いことが明らかになりました。これは年齢、性別、合併症の有無、喫煙歴といった因子で調整しても有意な差を認められました。
次に、がん患者さんの抗体量に影響を与える因子を検討した結果、研究参加1か月以内に細胞障害性抗がん剤を受けている患者さんでは抗体量が低く、免疫チェックポイント阻害薬を受けている患者さんでは抗体量が高いことが明らかになりました。さらに、免疫チェックポイント阻害薬を投与された患者さんでは、年齢、性別、合併症の有無、喫煙歴で調整しても、投与された患者さんでは投与されていない患者さんに比べ有意に抗体量が高いことが明らかになりました。放射線治療や外科治療の有無による抗体量に差は認められませんでした。
同研究センターは、今後の展望として次のように述べています。
「今後、がん患者さんに対するワクチン接種の有効性を評価するため、ワクチン接種後の抗体量の推移を検討するとともに、がん治療が新型コロナウイルス抗体の産生に与える影響を明らかにしたいと考えています」
主な調査概要
測定期間
2020年8月~10月
調査対象
がん患者さん500人(国立がん研究センター中央病院に通院中の患者さん)
健常人1,190人(国立がん研究センター職員)
がん種の内訳
肺がん84人
原発性脳腫瘍75人
乳がん66人
膵臓がん50人
食道がん33人
頭頸部がん29人
大腸がん27人
肉腫22人
悪性黒色腫20人
血液がん11人
その他83人
がん治療の内訳
研究参加1か月以内に何らかのがん治療を受けていた患者さん355人(71%)
放射線治療24人(4.8%)
外科手術35人(7%)
免疫チェックポイント阻害薬44人(8.8%)
分子標的治療薬92人(18.4%)
細胞障害性抗がん剤204人(40.8%)
健常人の内訳
医師179人(15.0%)
看護師385人(32.3%)
研究者197人(16.6%)
技師113人(9.5%)
薬剤師50人(4.2%)
事務職員266人(23.4%)