進行膵臓がんの術前多剤併用化学療法の有効性と安全性を臨床試験で確認

2022/03/28

文:がん+編集部

 進行膵臓がんの術前多剤併用化学療法の有効性と安全性が、臨床試験で確認されました。7割弱の患者さんで膵臓がんが完全切除され、また手術後の3年生存率は55%という高い治療効果が認められました。

7割弱の患者さんで膵臓がんが完全切除され、手術後の3年生存率は55%

 名古屋大学は2022年3月14日、進行膵臓がんの術前化学療法の有効性と安全性を臨床試験で確認したことを発表しました。同大大学院医学系研究科腫瘍外科学の江畑智希教授と同大医学部附属病院消化器外科一の山口淳平病院講師らの研究グループによるものです。

 膵臓がんの根治的治療は、現状切除手術のみですが、切除後の5年生存率は3割程度です。最近では、術前術後に行う補助化学療法の効果が明らかとなり、標準的な治療法となりつつあります。手術ができない患者さんに対しは、FOLFIRINOX療法や「ゲムシタビン+ナブパクリタキセル(GnP療法)」など多剤併用化学療法が行われます。手術で切除できるかどうか微妙な「切除可能境界膵臓がん」患者さんに対し、多剤併用療法を手術前に行う意義は、これまで明らかにされていませんでした。研究グループは、切除可能境界膵臓がんに対し術前に行う多剤併用化学療法の安全性と有効性を確認するために臨床試験を実施しました。

 今回実施されたNUPAT-01試験は、切除可能境界膵臓がん患者さん51人を対象に、術前治療としてFOLFIRINOX療法またはGnP療法を約2か月間行った後に手術を行いました。その結果、化学療法による副作用はこれまでに報告されていた範囲内で、84%の患者さんで膵臓がんを切除することができました。手術による合併症は30%で認められましたが、死亡した患者さんはいませんでした。67%の患者さんで完全に病変が切除され、約4%の患者さんではがん細胞が完全に消失していました。

 また、手術後の3年生存率は54.7%、平均生存期間は約40か月でした。切除可能境界膵臓がんの切除後平均生存期間は10か月程度とされていますので、今回の結果は非常に良好なものでした。FOLFIRINOXとGnPの比較では、全体としては生存率に差はありませんでしたが、切除後の膵がん再発までの期間はFOLFIRINOXの方が良好でした。

 研究グループは今後の展開として、次のように述べています。

 「今回の結果により、切除可能境界膵臓がんに対する術前の多剤併用化学療法は安全かつ有効であることがわかりました。今後はこの治療法が標準治療となる見込みです。しかしながら、術後に再発する例もまだまだ多いのが現状であるため、例えば術前に放射線治療を追加するなど、さらなる生存率の向上に向けた取り組みが必要になります」