大腸がん、便中の腸内細菌で早期診断の可能性

2019/06/12

文:がん+編集部

 大腸がんの発がんに関連する腸内細菌が発見されました。大腸がん患者さんの便を調べることで、大腸がんの早期診断や予防につながる可能性があると期待されます。

マイクロバイオームによるプレシジョン・メディシン(精密医療)

 大阪大学は6月7日に、便から大腸がんを早期に診断する新技術につながる腸内細菌を発見したと発表しました。同大学大学院医学系研究科の谷内田真一教授、東京工業大学生命理工学院生命理工学系の山田拓司准教授、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターゲノム医科学分野の柴田龍弘教授、慶應義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任教授らの研究グループによるものです。

 これまで、進行大腸がんの患者さんの便をメタゲノム解析することで、進行大腸がんに特徴的な細菌は、特定されていました。しかし、前がん病変の腺腫や粘膜内がんなどごく初期の大腸がんの発症に関連する細菌に関しては、解明されていませんでした。

 研究グループは、国立がん研究センター中央病院内視鏡科を受診し、大腸内視鏡検査を受けた616人を対象に、生活習慣などのアンケート、凍結便、大腸内視鏡検査所見などの臨床情報を収集。東京工業大学と慶應義塾大学先端生命科学研究所が共同で、統計便のメタゲノム解析とメタボローム解析を行い、大腸がんのステージごとの腸内環境の特徴を調べました。その結果、便中に増減している腸内細菌がステージごとで大きく異なることを明らかにし、大腸がんの多段階発がん過程で、大腸がんと関連する細菌を2つのパターンに分けることができました。

 1つは、粘膜内がんの段階から増加し、進行とともに上昇しているペプトストレプトコッカス・ストマティスなどの細菌で、すでに進行大腸がんで上昇していることが報告されている細菌です。もう1つは、腺腫や粘膜内がんの段階だけで上昇しているアトポビウム・パルブルムやアクチノマイセス・オドントリティカスという細菌です。

 また、腸内細菌などによる代謝物質を大腸がんのステージごとに解析したところ、腺腫がある患者さんではデオキシコール酸という胆汁酸が腸内に多いこと、粘膜内がんがある患者さんでは健常者と比較してイソロイシン、ロイシン、バリン、フェニルアラニン、グリシンなどのアミノ酸が便中で増加していることも明らかになりました。

 研究グループは、「本研究成果により、個々人の腸内細菌叢の違いにまで踏み込んでがん予防や治療選択を行う「MicrobiomeBased Precision Medicine」時代の幕開けになると考えています。また、食事などの生活習慣との関係を詳細に検討することにより、科学的根拠を踏まえた新たながん予防・治療、それに付随する産業(食品等)など、新たな需要の掘り起こしと成長分野を生み出す潜在性があります」と、発表しています。

 同大学大学院医学系研究科の谷内田真一教授は「メタゲノム研究は米国にはHMP(Human Microbiome Project)、欧州にはMetaHIT(Metagenomics of Human Intestinal Tract)という国を挙げた巨大プロジェクトがあり、本邦は後塵を拝してきました。がんは「ヒトゲノム(遺伝子)」の病気であるとともに「微生物」の病気であることが解明されつつあります。「がんゲノム医療」が注目されていますが、ヒトゲノムだけでなく、ヒトに住む微生物のゲノムを調べることにより、新たながん予防や治療法の開発が期待されます」と、述べています。