リムパーザ、転移性去勢抵抗性前立腺がんに対し無増悪生存期間を改善

2019/09/02

文:がん+編集部

 BRCA1、BRCA2(以下BRCA1/2)遺伝子またはATM遺伝子変異陽性の前立腺がんに対する治験で、オラパリブ(製品名:リムパーザ)が無増悪生存期間を有意に改善しました。

進行前立腺がん患者さんの約1~2割、5年以内に去勢抵抗性前立腺がんへ進行

 英アストラゼネカ社は8月7日、分子標的薬「オラパリブ」の第3相臨床試験PROfound試験の結果を発表しました。

 PROfound試験は、BRCA1/2、ATM、CDK12遺伝子変異など相同組換え修復(HRR)に関連する15種類の遺伝子のいずれかに変異がみられる、転移性去勢抵抗性前立腺がんを対象とした臨床試験。前治療として新規ホルモン療法としてエンザルタミド(製品名:イクスタンジ)、アビラテロン酢酸エステル(製品名:ザイティガ)を行い、病勢進行が認められた患者さんを対象です。BRCA1/2またはATM遺伝子変異陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がん患者さんに対して、オラパリブ投与群とエンザルタミドまたはアビラテロン投与群を比較した結果、主要評価項目である無増悪生存期間を有意に改善、臨床的に意義のある延長を示しました。オラパリブの安全性および忍容性は、これまでに認められていた安全性プロファイルと概ね一貫していました。

 オラパリブは、損傷したDNAを修復する酵素「PARP」を阻害する分子標的薬です。正常な細胞で2本鎖DNAの1本が損傷すると、PARPが修復します。オラパリブで修復を妨げると、やがて2本目のDNAも損傷しますが、2本とも損傷したDNAは通常、BRCA1/2というタンパク質が修復します。しかし、BRCA1/2遺伝子に変異があると、2本とも損傷したDNAの修復ができず、細胞は死にます。つまり、オラパリブは、BRCA1/2遺伝子変異によってDNAが修復できずがん化した細胞に特異的に働き、PARPを阻害することでがん細胞のDNA損傷の修復をさせず細胞死を誘導するのです。

 オラパリブは現在、「プラチナ製剤感受性の再発卵巣がんにおける維持療法」「BRCA遺伝子変異陽性の卵巣がんにおける初回化学療法後の維持療法」「がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の転移性乳がん」の3つの適応症で国内承認されています。

 同社のオンコロジー研究開発エグゼクティブバイスプレジデントであるJosé Baselgaは「転移性去勢抵抗性前立腺がんは致死的な疾患であり、特に新規ホルモン薬が効かなかった患者さんの予後は不良です。PROfound試験は、より効果的な治療に対するニーズが高い転移性去勢抵抗性前立腺がんを対象としたPARP阻害剤の試験のなかで、良好な結果が得られた唯一の第3相試験です。また、本試験は、リスクを有する患者集団において、ゲノム検査の価値の可能性を示しています。私たちはこの結果について、世界の薬事当局と早急に議論を進めていきたいと考えています」と、述べています。