腎細胞がんの新たな治療標的となるタンパク質の働きを解明
2019/12/17
文:がん+編集部
腎臓がんの転移や発現にかかわる、新たなタンパク質の働きが解明されました。治療標的として期待されます。
新たな治療法の開発に向け、臨床試験も計画
千葉大学は11月29日、ヒトの細胞内でアミノ酸を運ぶ役割を担う膜タンパク質「アミノ酸トランスポーターLAT1(SLC7A5)」が、腎臓でがんに特異的に発現し、がんの転移や発現にかかわることを解明したと発表しました。同大大学院医学研究院安西尚彦教授、市川智彦教授の共同研究グループによるものです。
アミノ酸トランスポーターは、細胞の中にアミノ酸を運ぶ役割を担っており、なかでも「Large neutral amino acid transporter (LAT)」は、人体の維持に必要な「必須アミノ酸」を取り込む役割を担っています。LATは1~4まで種類があり、特にLAT1はがん細胞に発現することで注目されています。安西教授らはこれまでに、このLAT1を阻害する薬剤(JPH203)を開発しており、消化器がんの一部では抗がん作用が確認されていました。
研究グループは、腎細胞がん患者さんのがん組織を調べたところ、LAT1ががん組織に多く発現しており、LAT1が多いほど転移や再発が多いことを突きとめました。また、腎細胞がんの細胞に対して LAT1阻害薬 JPH203を投与すると、細胞の中に入るアミノ酸の量が減ることがわかりました。がん細胞の増殖に重要な役割を果たすリン酸化酵素「mTOR」の活性が低下することが、がん細胞の増殖が抑制される理由の1つとしています。
研究グループは、今後の展開と新規治療法の実用化に向け、次のように述べています。
「実験の結果から、このアミノ酸トランスポーターLAT1自体が腎細胞がんの腫瘍マーカーとなる可能性があり、また、阻害薬JPH203はその治療薬となる可能性があります。今後は千葉大学医学部附属病院泌尿器科との共同研究で、腎細胞がんだけでなく前立腺がん、膀胱がんなど他のがんへの応用研究や、ヒトへの阻害薬投与を行う臨床試験を計画しており、実用化に向けて着実に研究を進めています」