乳がんの発症メカニズムの一端を解明、エストロゲンに誘導されるMyc遺伝子と関連
2020/02/06
文:がん+編集部
エストロゲンによる乳がん発症のメカニズムの一端が解明されました。本研究により乳がんの発がんメカニズムの研究が活発になり、乳がんの予防法が確立されることが期待されます。
エストロゲン+DNA修復能の低下→Mycの高発現→乳腺上皮細胞の増殖→異形成という発がんメカニズム
神戸医療産業都市推進機構は1月23日、エストロゲンに誘導されるMyc遺伝子の発現が高まり、乳がんの初期に見られるような異型性が起こるという、乳がんの発生のメカニズムの一端を解明したことを発表しました。同機構・先端医療研究センター・老化機構研究部の伊東潤二研究員(兼:京都大学大学院医学研究科客員研究員)らの研究グループによるものです。
乳がんは、正常な乳腺に発生し、正常な乳腺では乳管の内側の乳腺上皮細胞の層と外側の筋上皮細胞の二相性が保たれています。その二相性が乱れ異形成となった乳管では、乳腺上皮細胞の増殖がみられ、異形成となった細胞は悪性のがんに進行するといわれています。しかし、乳腺の異形成が起こるメカニズムは不明な点も多くあります。これまで乳がんのさまざまな発がん因子が報告されてきましたが、それらの関係を体系的に理解できていませんでした。
研究グループは、エストロゲンと乳がん発症の関係について、マウスを用いて検証しました。エストロゲンは乳がん発症に関わるといわれる女性ホルモンの1つ。エストロゲン受容体と結合することで遺伝子の発現を制御し、その際DNAの二重鎖を切断します。通常は、すぐに二重鎖の切断は修復されますが、DNA修復機能が低下したマウスにエストロゲンを投与する実験を行ったところ、乳管の二相性の乱れや乳腺上皮細胞の浸潤が観察されました。。
さらに、DNA修復機能を低下させた培養細胞をエストロゲン刺激することで、Myc遺伝子の発現誘導が強まることも観察されました。また、Myc遺伝子の発現を阻害する阻害薬とエストロゲンを同時に投与し、乳腺上皮細胞の増殖を抑制し、異形成も抑えることに成功しました。これらのことから、「エストロゲン+DNA修復能の低下→Mycの高発現→乳腺上皮細胞の増殖→異形成」という発がんメカニズムが明らかになりました。
研究グループは、もう1つの女性ホルモン「プロゲステロン」についても検証。このホルモンはエストロゲン受容体の機能阻害があるとの報告があり、異形成を抑える可能性があります。エストロゲンとプロゲステロンを同時に、DNA修復機能を低下させたマウスに投与したところ、Myc遺伝子の発現と異形成が抑制されました。この結果は、本研究の乳がん誘導系は発がんメカニズムだけでなく、発がんの抑制メカニズムの研究にも使うことができ、それを応用して乳がんの予防研究ができることを示しています。
研究グループは、今回の研究成果に対し今後の予定として次のように述べています。
「本研究で異形成を抑える物質の探索が行えるようになりました。異形成を抑えることは乳がんの予防につながります。今後は、発がんのメカニズムの研究を展開するとともに、乳がんの予防に使える物質の探索を、食品由来成分に着目し、進めていきたいと考えています。また、本研究の技術は、他のホルモンが関係するがん種にも応用できる可能性があります。今後は、乳がんに限らず、さまざまながん種の発がんメカニズムを調べたいと考えています」