EGFR陽性肺がん、免疫チェックポイント阻害薬への抵抗メカニズム解明

2020/02/21

文:がん+編集部

 EGFR遺伝子変異陽性の肺がんで、免疫チェックポイント阻害薬が効きにくいメカニズムが解明されました。

EGFR-TKIと免疫チェックポイント阻害薬併用で、最も強く腫瘍増殖が抑制

 名古屋大学は2月4日、肺腺がんでEGFR陽性の場合に、免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法が効きにくい原因を解明したことを発表しました。同大大学院医学系研究科分子細胞免疫学の西川博嘉教授らの研究グループによるものです。

 肺腺がんの約半数で認められるEGFR遺伝子変異陽性例では、免疫チェックポイント阻害薬が効きにくいことが報告されており、体細胞変異の数が少ないことが原因の1つとされています。変異が少ないと、作られてくる異常なタンパク質も少ないため、異物を排除する免疫応答が起きにくいと考えられていますが、そのメカニズムは解明されていませんでした。

 研究グループは、詳細な解析により、EGFR遺伝子変異陽性例では、がん組織の中に入り込む傷害性T細胞が少ない一方、制御性T細胞が多いことを明らかにしました。肺がんの細胞株を使ってさらに解析を行ったところ、EGFR遺伝子変異陽性の肺がん細胞では、免疫細胞を呼び寄せる作用のある化学物質「ケモカイン」が重要な働きをしていることが明らかになりました。

 続いて、EGFR遺伝子変異陽性の肺がんでは、EGFRシグナルが強く、制御性T細胞を呼び寄せる化学物質(ケモカインの1つでCCL22)の分泌が高い一方で、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)でEGFRシグナルを抑制すると化学物質の分泌が低下することが確認されました。さらに、EGFRシグナルを活性化すると細胞傷害性T細胞を誘導する化学物質(ケモカインの1つでCXCL10 やCCL5)の分泌が低下し、EGFRシグナルを阻害すると分泌が上昇することも確認されました。

 この結果を踏まえ、EGFRシグナルを阻害した状態で抗PD-1抗体といったがん免疫療法を実施すると抗腫瘍効果が高まるかを検証。EGFR遺伝子変異を挿入したマウス細胞株に、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬と抗PD-1抗体を投与した結果、最も強く腫瘍増殖が抑制され、生存期間の延長が示されました。

 研究グループは、今後の展開として次のように述べています。

 「EGFR陽性肺がんにがん免疫療法が治療効果を発揮しにくい原因として、体細胞変異数が少ないことが考えられてきました。本研究により特徴的な免疫抑制性の腫瘍環境が構築されていることが明らかになりました。EGFR陽性肺がんではEGFRシグナルは、従来考えられてきたようにがん細胞の増殖に関わるのみならず、ケモカイン分泌を介して免疫抑制性の環境を作り上げていることが示されました。これは、従来の発がんを誘発する遺伝子変異であるドライバー遺伝子が細胞増殖に関わるという概念を超えた新しい概念と考えられます。このような免疫抑制性の腫瘍環境を打破するには、EGFRシグナル活性を阻害した上で、がん免疫療法を行うと有効である可能性が示唆され、今後の肺がんの新たな治療戦略につながる可能性が示唆されます」