低酸素環境下の乳がんで、浸潤・転移を促進する分子の働きを解明

文:がん+編集部

 乳がんなど急速に増殖を続ける固形がんで、浸潤・転移を促進する分子の働きが解明されました。進行乳がんの治療標的となる可能性があります。

副作用が少ない進行乳がんの治療標的となる可能性

 広島大学は3月12日、低酸素環境下にある乳がんにおいて、「GLIS1」という分子が、遺伝子の発現量をコントロールすることで、がんの浸潤を促進するというメカニズムを解明したと発表しました。同大原爆放射線医科学研究所 放射線災害医療開発研究分野の島本和美大学院生、谷本圭司講師、廣橋伸之教授らの研究グループによるものです。

 急速に増殖する乳がんなどの固形がんの内部では、酸素の供給不足から低酸素環境下になっています。低酸素環境下にあるがん細胞では、抗がん剤や放射線治療に抵抗性を示し、予後不良になることが示されていました。研究グループが、低酸素環境下で発現亢進するGLIS1を人工的に増減し調べた結果、GLIS1はがん細胞の運動性や浸潤性を促進していることがわかりました。また、GLIS1を人工的に増やしたがん細胞では、がんの浸潤に関わる遺伝子「WNT5A」や、放射線応答に関わる遺伝子「CDKN1A」の発現量が増加し、細胞浸潤の促進や、放射線治療に抵抗性を獲得していることも突き止めました。

 さらに、遺伝子発現データベースとがん患者さんの予後を解析するツールを使い検討。その結果、ホルモン受容体陽性またはホルモン療法が効かない乳がん患者さんで、GLIS1の発現が高いと、予後不良であることが明らかになりました。GLIS1は正常細胞で発現量が少ないため、副作用の少ない治療標的となる可能性があります。

 今後の展開として研究グループは、次のように述べています。

 「今回、低酸素環境下の乳がん細胞において働く分子GLIS1が、乳がんの浸潤・転移や、放射線などの治療抵抗性獲得に関わり、特に進行乳がんにおいて、治療標的となり得るという結果を得ました。今後、GLIS1機能(量)を人工的に抑制する方法(核酸医薬、既存・新規の薬や化合物)の開発をめざします。また、さらなるGLIS1機能の詳細を明らかにすることにより、GLIS1を人工的に抑制したときの副反応の予測が可能となります」