白血病などに対して行われる造⾎幹細胞移植後のGVHDを抑制する抗体を特定
2021/05/28
文:がん+編集部
ヒトの制御性T細胞(Treg細胞)上に発現する免疫受容体「DNAM-1」の阻害抗体が、白血病などに対して行われる造⾎幹細胞移植後の合併症「移植片対宿主病(GVHD)」の発症を抑えることが明らかになりました。
抗ヒトDNAM-1阻害抗体がGVHD病態を抑制することをマウスで確認
筑波大学は5月17日、ヒトの制御性T細胞上に発現する免疫受容体「DNAM-1」の機能を阻害する抗体が、造血幹細胞移植後の合併症であるGVHDの発症を抑えることを初めて明らかにしたと発表しました。同大医学医療系の澁谷和子准教授とTNAX Biopharma株式会社 研究開発部 アソシエイトリサーチサイエンティストの阿部史枝氏らの研究グループによるものです。
GVHDは同種造血幹細胞移植の最も重篤な合併症で、移植の成否を左右するだけでなく、生命予後にも直接影響します。しかし、移植後100日以内に発症する急性GVHDに対する第一選択はステロイドや免疫抑制であり、抵抗性を示すことも多いことから、新規治療法の開発が急務となっています。
GVHDが悪化する一因として、Treg細胞の機能不全が挙げられます。しかし、GVHDにおいてTreg細胞の機能がどのように制御されているかは不明でした。
研究グループは今回、制御性T細胞上に発現する免疫受容体「DNAM-1」に着目し、GVHDモデルマウスを⽤いた実験を行いました。その結果、抗ヒトDNAM-1阻害抗体がGVHD病態を抑制する観察に初めて成功しました。
抗ヒトDNAM-1阻害抗体はGVHDの治療薬として有望、Treg細胞を標的とする治療法開発にも期待
さらに、DNAM-1は制御性T細胞の表面に発現している「TIGIT」と同じタンパク質と結合するため、DNAM-1が結合することで制御性T細胞が結合できなくなり、制御性T細胞の機能が抑制されるというメカニズムを突き止めました。
研究グループは、今回の発表について、次のように述べています。
「ヒトおよびマウスTreg細胞の機能を亢進させるという観点から、抗ヒトDNAM-1阻害抗体は、GVHDの治療薬として有望です。また、Treg細胞の機能不全を伴う炎症性疾患や⾃⼰免疫病などは増加傾向にあり、今後、抗ヒトDNAM-1阻害抗体を⽤いたTreg細胞を標的とする炎症性疾患や⾃⼰免疫病の治療法開発が期待されます」