日本癌学会、特別企画セッション「立場を超えて、多種多様ながん課題の共有・解決へ」開催

2021/10/12

文:がん+編集部

 がんを取り巻く社会的課題について、特に大きなトピックである、がん情報、コミュニティ、就労、患者市民参画、メディア、政策に関わる登壇者が、治療以外の課題についてセッションが行われました。

がん患者さんの孤独、正しいがん情報発信、情報格差の改善、がん教育など多様な課題を共有

 日本癌学会学術総会で、一般社団法人CancerXによる特別企画セッション「立場を超えて、多種多様ながん課題の共有・解決へ」が10月1日にオンラインで開催されました。初めに、CancerX共同代表理事・共同発起人の1人、米国テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの上野直人教授が、今回のセッションの目的を述べました。

 「がんを取り巻く医療的・社会的なテーマは多種多様なことに気づきました。こうした多種多様な課題の共通点を見つけることが大きなテーマと考えています。また、課題を共有することで、複雑化し1つの組織では解決が難しくなっている課題解決のために手を取り合う“コレクティブ・インパクト”で課題を解決していくことが大切だと考えています。立場を超えて、登壇者の意見を踏まえ、なにができるかを中心に話し合えればと考えています」

 続いて、各登壇者が感じている課題が発表されセッションが行われました。

笠井 信輔 氏(フリーアナウンサー)

「悪性リンパ腫の治療で4か月半の入院生活を送りました。コロナの影響で後半3か月半は誰も見舞いに来られないという状況になり、大変な孤独を感じました。入院している人にしかわからない孤独です。そうした孤独を救ってくれたのが、インターネット環境でした。インターネット環境があれば、病室でも外にいる人とつながれます。大学時代の親友たちがZOOMで「見舞い」に来てくれ、大きな救いになりました。しかし、私が入院していた病院ではすべての病室でWi-Fiが使えなかったため、自分のスマートフォン回線を使用していました。この状況を変えたいと考え、2021年1月に”病室WiFi協議会”という団体を立ち上げました。活動の1つとして、全国初の「この病院は全病室でWi-Fi使えます!大調査」を行いました。その結果、全病室の無料Wi-Fiの導入率は、がん拠点病院が23.9%、小児がん拠点病院が13.3%、国立病院が7.9%ということがわかりました。さらに、がん拠点病院の47%が全病室でWi-Fiがまったく使えないという驚くべき結果でした。コロナ禍にある入院患者さんの孤独をどう救えばいいのか、日本の医療が抱える新たな社会問題だと考えます」

鈴木 美穂 氏(認定NPO法人マギーズ東京 共同代表理事/CancerX共同発起人)

「がんの課題の中で、一番問題意識を持っているのはがん情報です。さまざまな治療がでてきて、それぞれの患者さんにあった治療が行われるようになってきた時代に、怪しい偽の情報もたくさんあります。エビデンスのあるきちんとした情報を適切な人に届けられるような仕組みを作っていきたいと考えています。患者だけでもできません、メディアだけでもできません、一緒に構築していく方法を模索して欲しいと思います」

三木谷 浩史 氏(楽天メディカル社副会長兼CEO/楽天メディカルジャパン株式会社代表取締役会長)

「がん治療はすさまじいスピードで進んでいます。5年前10年前に助からなかった人が、助かるようになってきています。しかし、そうした最新の治療が高いのかというと、臨床試験にすさまじい費用がかかること、行政プロセスに手間がかかり長期間に及ぶことがあります。この課題解決のための1つとして、日本独自の承認プロセスの必要性を感じます。また、偽の情報を発信しないことも大切ですが、必要な人に必要な情報が届いていないという状況を改善し、情報格差をなくすことが大きな課題の1つと考えています」

三原 じゅん子 氏(参議院議員)

「いま日本に最も必要なのは、がんや健康に対する教育です。がん対策基本計画の中に、がん教育を入れてもらいましたが、まだ子どもたちにきちんとしたがん教育がなされている状況ではありません。がんをきちんと教えてあげることが、がんの情報格差をなくすことにもつながり、がんとともにいきていく社会において大切なことだと思います」

三嶋 雄太 氏(筑波大学 医学医療系 助教/筑波大学附属病院 再生医療推進室 副室長/CancerX理事・共同発起人)

「インターネットなどインフラの普及による社会進歩により、格差が生まれることもあります。これは新しい問題です。この問題にいかに気づき、解決していくかは大切なことです。Wi-Fiの問題でも、仮に一部のがん拠点病院で無料Wi-Fiが使えるようになったとしても、地方の病院でも使えなければ、そこに格差が生まれます。どこが置いていかれていないのか、どこか置いていっていないのかを注目して考えていくことが大切だと考えています」

「今回、日本癌学会が、このセッションを設けたことに感謝します。今後もさまざまな業種の方、これまでは考えられないような分野の方が集まって課題を見つけ解決していくというコンセプトを医療者や研究者は理解して、広めていってほしいと思います。また、がんであろうがなかろうが、多種多様な方が一緒に考えていってもらいたいと思います」と上野 直人教授は、セッションを締めくくりました。

第80回日本癌学会学術総会特別企画セッション「立場を超えて、多種多様ながん課題の共有・解決へ」

座長:
上野 直人氏
テキサス大学MDアンダーソンがんセンター 教授 / CancerX共同代表理事・共同発起人
三嶋 雄太氏
筑波大学 医学医療系 助教 / 筑波大学附属病院 再生医療推進室 副室長 / CancerX理事・共同発起人

登壇者:
笠井 信輔 氏 フリーアナウンサー
鈴木 美穂 氏 認定NPO法人マギーズ東京 共同代表理事 / CancerX共同発起人
三木谷 浩史 氏 楽天メディカル社 副会長 兼 CEO / 楽天メディカルジャパン株式会社 代表取締役会長
三原 じゅん子 氏 参議院議員