大腸がん患者さんの末梢血から、iPS細胞を使った樹状細胞の樹立に成功

2022/04/01

文:がん+編集部

 大腸がん患者さんの末梢血から、iPS細胞を使った樹状細胞の樹立に成功。試験管内実験で、大腸がんに対するワクチン効果が確認されました。

試験管内実験で、大腸がんに対するiPS樹状細胞ワクチンの効果を確認

 和歌山県立医科大学は2022年3月9日、大腸がん患者さんの末梢血から、iPS細胞を使った樹状細胞の樹立に成功し、試験管内実験で大腸がんに対するワクチン効果を確認したことを発表しました。同大学外科学第2講座の山上裕機教授、尾島敏康講師、丸岡慎平医師らの研究グループによるものです。

 樹状細胞は、がん免疫で中心的な役割を担っており、これまでに樹状細胞を使ったワクチン療法は数多く研究されています。しかし、樹状細胞ワクチン療法の臨床応用は、患者さんから誘導された樹状細胞は採取できる数が少ない、脆弱性があるなど問題点が多くあります。

 研究グループは、こうした問題点を解決するためにiPS細胞に着目。これまでに、マウス由来のiPS樹状細胞を樹立し、メラノーマに対し腫瘍抗原遺伝子を導入したiPS樹状細胞ワクチンの高い抗腫瘍効果を確認したこと、続いて健常人から樹立したiPS樹状細胞ワクチンでも、試験管内実験で抗腫瘍効果が認められたことも報告していました。

 今回、3人の大腸がん患者さんの末梢血から、ヒトiPS細胞を使った樹状細胞の樹立に成功。これらの大腸がん患者さんの腫瘍由来のメッセンジャーRNAをヒトiPS樹状細胞に導入し、細胞傷害性Tリンパ球を誘導したところ、3人全員で抗腫瘍効果が認められました。

 研究グループは結論と波及効果として、次のように述べています。

 「我々の研究グループは組織不適合がなく、無限増殖能をもつiPS細胞を用いたがんワクチン療法の研究に着目してきた。今回、我々はがん患者さんより誘導したiPS樹状細胞が自己のがん細胞に対してワクチン効果を発揮する可能性があることを世界で初めて立証した。さらにこのワクチンシステムが新規がん抗原であるネオアンチゲンを認識することを初めて確認した。今回の研究におけるiPS樹状細胞ワクチン療法の研究成果は前臨床試験として世界にインパクトを与えるとともに、多くの難治性消化器固形がん患者に大きな希望を与えると確信する」