がんが脂肪を使って免疫から逃れるメカニズムを解明
2022/06/01
文:がん+編集部
がん細胞が、脂肪を使って免疫から逃れるメカニズムが解明されました。MRI検査で、腫瘍内脂肪の蓄積を調べることにより、肝細胞がんに対する免疫チェックポイント阻害薬を含む複合免疫療法の効果予測につながる可能性のある研究成果です。
MRI検査、肝細胞がんに対する複合免疫療法の効果予測を可能に
大阪大学は2022年5月16日、脂肪滴を蓄えた脂肪含有肝細胞がんが、免疫疲弊を誘導し、抗腫瘍免疫から逃れるメカニズムを解明したことを発表しました。同大医学部附属病院の村井大毅医員、同大学院医学系研究科の小玉尚宏助教、竹原徹郎教授らの研究グループによるものです。
進行肝細胞がんに対する薬物治療は、抗PD-L1抗体と抗VEGF抗体の複合免疫療法(「アテゾリズマブ(製品名:テセントリク)+ベバシズマブ(製品名:アバスチン)」を中心に、6種類の分子標的薬による治療選択がありますが、患者さんごとに最適な薬剤を選択する個別化医療が重要です。そのため、各薬剤の治療効果が予測できるバイオマーカーの開発が求められています。
研究グループは、100人以上の非B非C型肝細胞がん患者さんの切除検体の解析を実施し、予後や腫瘍内の免疫動態に基づいて肝細胞がんを層別化することに成功しました。また、がん細胞内の脂肪滴貯留という特徴がある脂肪含有肝細胞がんが、免疫チェックポイント阻害薬の効果が得られやすい状態にあることを見出しました。
さらに、MRI画像で腫瘍内脂肪蓄積を認めた患者さんでは、「アテゾリズマブ+ベバシズマブ」併用療法の効果が良好となることを示しました。本研究により、非侵襲的なMRI検査が肝細胞がん複合免疫療法の効果予測に有用なイメージングバイオマーカーとなることが期待されます。
研究グループは本研究成果の意義として、次のように述べています。
「複合免疫療法の治療効果を事前に予測することで、さまざまな薬物療法の選択肢の中からより最適な薬剤選択を行うことが可能となり、進行肝細胞がん患者の生命予後改善に寄与することが期待されます。また、MRI検査は肝細胞がんの診断目的に実施されることから、一度の検査で非侵襲的に複合免疫療法の治療効果を予測できる点で、患者に優しいバイオマーカーとなることが期待されます。さらに、本研究からパルミチン酸を介した肝がんの免疫逃避機構を標的とした治療薬開発に繋がることも期待されます」