光免疫療法の新たな標的分子として「ICAM-1」を確認

2022/07/14

文:がん+編集部

 光免疫療法の新たな標的分子として「ICAM-1」が確認されました。ICAM-1を標的とした光免疫療法を、将来トリプルネガティブ乳がんの治療として応用できる可能性が示唆されました。

ICAM-1を標的とした光免疫療法、トリプルネガティブ乳がんの治療として応用できる可能性

 関西医科大学は6月23日、光免疫療法の新規標的分子として、主要な細胞接着分子の1つであるICAM-1がこの治療の非常に有望な標的分子であることを、2つのトリプルネガティブ乳がんの腫瘍モデルで確認したことを発表しました。同大学附属光免疫医学研究所の小林久隆所⾧・特別教授と米国国立衛生研究所の共同研究によるものです。

 今回の研究では、トリプルネガティブ乳がんの2つの細胞株をマウスの皮下に移植し、光免疫療法の新規標的分子としての有用性を調べました。

 試験管内で、トリプルネガティブ乳がん由来の細胞に近赤外線光を照射したところ、赤外線照射量依存的に細胞に損傷が起きることを確認。また、生体内でICAM-1をターゲットに近赤外線光を照射したところ、細胞質の空胞形成などが起き、がん細胞に損傷が与えられていることが確認できました。形態的には損傷がないように見えたがん細胞にでさえ、治療後2時間以内にアクチン細胞骨格※1の異常な分布と、Ki-67※2陽性の著明な減少が認められました。

 このことから、ICAM-1をターゲットとした近赤外線光照射により、がん細胞がダメージを受け増殖が抑制されたことが示唆されました。将来、トリプルネガティブ乳がんの治療として、また多くのがんへの適応が期待されます。

 研究グループは本研究の意義・今後の展開として、次のように述べています。

 「今回確認された近赤外線光の照射によるがん細胞の病理学的な損傷は、腫瘍の拡大を抑制し、腫瘍移植マウスの生存を改善しました。この研究は、ICAM-1を標的とした光免疫療法を、将来トリプルネガティブ乳がんに臨床応用できる可能性を示唆しています」

※1アクチンは、筋肉を構成する主要なタンパク質の一種で、細胞骨格は細胞の形を保持し変化させる細胞内の要素。
※2細胞周期に関連するタンパク質の一種で、乳がんでは細胞増殖能のマーカーとして利用。