大腸がん、化学療法後に再発するメカニズムを解明

2022/07/29

文:がん+編集部

 大腸がんが、化学療法後に再発するメカニズムが解明されました。大腸がんの再発予防や根治療法の開発が期待されます。

YAPシグナル阻害薬が、化学療法後のがんの再燃・再発を遅らせることを動物実験で確認

 慶應義塾大学は2022年7月8日、大腸がんの増殖を司るヒトのがん幹細胞が化学療法後も死滅せず、再燃・再発につながるメカニズムを初めて解明したことを発表しました。同大学医学部坂口光洋記念講座の太田悠木研究員、藤井正幸専任講師、佐藤俊朗教授らの研究グループによるものです。

 化学療法を行っても死なないがん幹細胞の存在は、がんが再燃・再発する原因と考えられてきましたが、その詳細は明らかにされていませんでした。

 今回研究グループは、ヒト大腸がんをマウスの体内に移植し、リアルタイムに観察する技術の開発に成功。一部のがん幹細胞は増殖しない休眠状態になり、化学療法を生き延びてクローン増殖することを明らかにしました。また、がん幹細胞が、細胞の増殖や分化などに重要な役割を果たす「細胞外基質」にしがみつくことで、休眠状態を維持していることを見出しました。さらに、細胞外基質との接着が弱まるとがん幹細胞は、細胞の増殖を誘導する「YAPシグナル」の活性化とともに、増殖を再開することがわかりました。

 そこで研究グループは、マウスによる動物実験を実施。YAPシグナルを阻害する薬剤が、化学療法後のがん幹細胞の再増殖を抑制し、がんの再燃・再発を遅らせることを確認しました。今回の研究成果は、大腸がんの生命予後を決めているがんの再燃・再発に着目した新しい治療法の開発につながることが期待されます。

 研究グループは研究の成果と意義・今後の展開として、次のように述べています。

 「本研究では、生体内イメージング、細胞系譜解析、患者由来大腸がんオルガノイドを統合し、休眠LGR5がん細胞が、化学療法の耐性および再燃・再発に関与することを示しました。また、コラーゲンタンパク質COL17A1が休眠LGR5がん細胞のYAPシグナルを調節することによって休眠・増殖の状態を制御することを発見しました。こうした結果に基づき、研究グループは、ヒト大腸がんオルガノイドの移植モデルを用い、次世代型YAPシグナル阻害剤(TEADi)による、がんの再発の阻止が可能であることを実証しました。今回の成果が今後臨床応用され、化学療法後のがんの再燃・再発を防ぐ新しい治療法となることが期待されます」