トリプルネガティブ乳がん、発症・進展の鍵となる原因分子を発見

2022/08/03

文:がん+編集部

 トリプルネガティブ乳がんの発症・進展の鍵となる原因分子が発見されました。新たな治療薬の開発につながる研究成果です。

トリプルネガティブ乳がんの新たな治療薬として、Hippo-TAZ経路阻害薬の開発に期待

 神戸大学は2022年7月13日、トリプルネガティブ乳がんの発症・進展の鍵となるドライバー経路「Hippo-TAZ経路」を発見したことを発表しました。同大学大学院医学研究科分子細胞生物学分野の西尾美希講師らの研究グループによるものです。

 トリプルネガティブ乳がんは、他の乳がんに比べて浸潤・転移しやすく、既知の抗がん剤治療にも抵抗性で、予後が不良となる場合が多いことから、その鍵となる原因分子の早急な解明や新しい治療薬の開発が切望されています。

 組織学的に乳がんは、乳管を構成する細胞「内腔細胞」とそれを取り巻く「基底細胞」に分類され、トリプルネガティブ乳がんの71%~78%が、基底細胞様乳がんとされています。基底細胞様の乳がんも、内腔細胞ががん化したものであることが、近年証明されていますが、内腔細胞がどのように基底細胞の形質を獲得するかは不明でした。

 また、基底細胞様乳がんでは、代表的ながん抑制遺伝子であるp53遺伝子の不活化変異が最も多いことから、基底細胞様乳がんの発症・進展の鍵分子の1つであると考えられていましたが、明らかにされていない他の鍵分子の影響も考えられています。さらに、進行した基底細胞様乳がん患者さんでは、細胞増殖などの重要な遺伝子発現を亢進させる転写共役因子「TAZ」の活性が高いこがわかっていましたが、発症にどのように関わっているかは不明でした。

 そこで研究グループが、TAZのブレーキとなる「MOB1」を欠損させることでTAZを強力に活性化させたマウスを作製したところ、2週間以内に内腔細胞乳がんができ、速やかに基底細胞様乳がんに変化、4週から浸潤がんの発症が確認されました。また、試験管内で、ヒト内腔細胞がん細胞のTAZを活性化させると、基底細胞様乳がんに変化することを明らかにしました。さらに、MOB1に加えTAZも欠損させたマウスでは、がんの発症が顕著に抑制されることから、基底細胞様乳がんの発症にはTAZの活性化が鍵となることを見出しました。

 基底細胞様乳がん患者さんでは、前がん病変からTAZが活性化しており、進行するにしたがってTAZが活性化していましたが、基底細胞様乳がん以外では、TAZの活性化は認められませんでした。また、初期病変ではp53遺伝子変異が生じることは稀であったことから、基底細胞様乳がんの原因遺伝子はp53ではないと考えらえました。さらに、MOB1欠損 (TAZ活性化) マウスにp53欠損変異が加わると、より進展性や悪性度が高まったことから、基底細胞様乳がんの発症・進展に関わる鍵分子はTAZであり、p53変異が加わることで悪性度を増すことが示唆されました。

 研究グループは今後の展開として、次のように述べています。

 「今回TAZの活性化が、トリプルネガティブ乳がん (基底細胞様乳がん) の発症・進展において重要な鍵となることを始めて見出し、このがんにはTAZを標的とする治療薬が有望である可能性を示した。これまでに、乳がん発症・進展のリスクファクターである 肥満、女性ホルモン、喫煙などや、乳がんで見られるいくつかの遺伝子変異 (p53、WNT1、PI3K、HIF1α/ARNT、EGFR、RTKなど) が、Hippo-TAZ経路の活性を変化させることがわかっている。これらの要因によって閾値を超えたTAZの活性化が持続することで基底細胞様乳がんができる可能性がある。現在、本研究グループを含め、世界中の研究者がHippo-TAZ経路阻害剤の開発に凌ぎを削っている。本研究グループの研究が基になって、トリプルネガティブ乳がんの予後が改善する日は遠くないかもしれない。また、本研究で開発したマウスは、基底細胞様乳がんを極めて早期に自然発症することから、個体レベルでのがん治療薬効果判定に有用となる。そのため、本マウスを使用することで、速やかな阻害剤開発が進められることが期待できる」