ER陽性乳がんの晩期再発の予測因子となる可能性を発見

2022/08/12

文:がん+編集部

 エストロゲン受容体(ER)陽性乳がんのがん幹細胞に、ノンコーディングRNA 「エレノア」が関わっていることを発見。晩期再発の予測因子として期待されます。

乳がん幹細胞を標的とする新しい治療法の標的となる可能性

 がん研究会は2022年7月25日、エレノアの発現がER陽性乳がんの晩期再発と相関し、再発の予測因子となる可能性を発見したことを発表しました。同研究会がん研究所がん生物部の福岡恵大学院生らと、がん研有明病院乳腺センター、がん研病理部、名古屋大学との共同研究によるものです。

 ER陽性乳がんは、術後5年以降でも再発することが多く、これを晩期再発といいます。再発転移の過程で、がんがあまり増殖しない長期休眠状態に入ることが原因の1つと示唆されていますが、晩期再発のメカニズムは未だ不明です。

 研究グループが、乳がん患者さんの検体のエレノア発現を詳細に解析したところ、原発巣でのエレノアの発現が晩期再発と相関し、再発の予測因子であることを明らかにしました。さらに、マウス移植モデルを使った実験などにより、エレノアは乳がん幹細胞のマーカー遺伝子「CD44」の転写を活性化し、がん幹細胞の維持に関わることが明らかになりました。

 これまでに、エレノアが増殖遺伝子とアポトーシス(細胞死)遺伝子を相互作用させることで、乳がんの増殖とアポトーシスのバランスを保つことが報告されていました。これに加えて、今回発見したエレノアの乳がん幹細胞の維持機能は、乳がん細胞を再発に有利な環境になるまで長い期間休眠状態に陥らせる晩期再発の仕組みの一部であることが示唆されました。

 研究グループは、次のように述べています。

 「本研究では、エレノアの臨床検体における意義を解析しました。その結果、エレノアが乳がん幹細胞の維持を介してER陽性乳がんの長期休眠に関わることを示しました。さらに、晩期再発を早期に予測する診断の指標となり得ること、乳がん幹細胞を標的とする新しい治療法の標的としての可能性が示唆されました」

※特定のタンパク質を作るための情報を持たないRNA