甲状腺がんに対するレンビマ薬剤耐性メカニズムの一部を解明

2022/11/02

文:がん+編集部

 甲状腺がんに対する、レンバチニブ(製品名:レンビマ)の薬剤耐性メカニズムの一部が解明されました。

「レンビマ+EGFR阻害薬」併用、耐性を克服するための新たな治療戦略になる可能性

 信州大学は2022年10月17日、甲状腺がんが、がん分子標的治療薬に抵抗性を獲得するメカニズムの一部を解明したことを発表しました。同大学医学部外科学教室 乳腺内分泌外科学分野の研究チームによるものです。

 進行再発甲状腺がんに対する治療薬として、マルチキナーゼ阻害薬のレンバチニブが広く用いられています。しかし、レンバチニブに対し治療当初から抵抗性を示すがんや、治療中に抵抗性となるがんがあり、薬剤耐性が問題となっています。

 研究グループは、甲状腺がん細胞株を使ってレンバチニブ耐性株を樹立し、その耐性メカニズムがどのように起こっているのかを調べました。その結果、EGFR、ERK(細胞外シグナル制御キナーゼ)、Aktのリン酸化の顕著な亢進が認められました。

 次に、レンバチニブ耐性株を移植したマウスに、レンバチニブにEGFR阻害薬ラパチニブ(製品名:タイケルブ)を併用して投与を行ったところ、レンバチニブ単剤と比べ顕著な腫瘍増殖抑制効果が認められました。

 さらに、レンバチニブの甲状腺がん細胞のシグナル伝達に対する作用を、6種類の甲状腺がん細胞株で解析したところ、レンバチニブの投与により、それぞれの甲状腺がん細胞の組織型やドライバー遺伝子変異の違いに関わらず、全ての甲状腺がん細胞株でEGFRリン酸化の増強が観察されました。しかし、下流のシグナル伝達分子であるERKやAktのリン酸化には細胞株間で違いが認められました。

 続いて、ラパチニブ併用によるEGFRの阻害作用により、レンバチニブの細胞増殖を抑制する効果が増強されることを検証するために、これらの6種の細胞株に両剤を同時に投与すると、もともとレンバチニブ感受性が低い3つの細胞株で、レンバチニブとラパチニブによる増殖抑制効果の相乗的増強が認められました。

 これらのことから、甲状腺がん細胞ではレンバチニブ投与により、レンバチニブの標的分子ではないチロシンキナーゼ受容体であるEGFRを介したシグナル伝達の活性化が誘導されることが、甲状腺がん細胞のレンバチニブ耐性の一因になっている可能性が示され、EGFR阻害薬の併用によるこの経路の阻害が、甲状腺がん細胞のレンバチニブ感受性を高め、耐性を克服するための新たな治療戦略になる可能性が示されました。

 研究グループは波及効果と今後の予定として、次のように述べています。

 「レンバチニブは進行した甲状腺がんに対して世界中で広く用いられてきましたが、この薬剤に耐性になった後の有効な治療戦略は確立しておりません。今回の研究結果から、レンバチニブとEGFR阻害剤の併用がレンバチニブの効果を増強することが示され、進行甲状腺がんに対する新たな治療戦略となる可能性が示されました。すでにBRAFV600E変異陽性の甲状腺未分化がんに対しては、がん分子標的治療薬であるBRAF阻害剤とMEK阻害剤の併用療法が海外では臨床応用されていますが、複数のがん分子標的治療薬を併用してがん細胞の増殖に重要なシグナル伝達経路を阻害する治療戦略は、他にも幾つかの悪性腫瘍で臨床応用されています。今回の研究結果からも、今後の悪性腫瘍の治療戦略の中でがん分子標的治療薬の併用療法が大きな位置を占めることが予測されます。今後は、レンバチニブが甲状腺がん細胞でEGFRの活性化を誘導する分子生物学的機構を解析するのと並行して、他の耐性機構の解析を行う予定です」