難治性肉腫に対するウイルス療法の有効性を動物実験で確認
2022/11/18
文:がん+編集部
難治性肉腫に対するウイルス療法の有効性が、動物実験で確認されました。
T-01、がん治療用ウイルス製剤「デリタクト」とほぼ同じ構造を持つがん治療用ウイルス
関西医科大学は2022年10月31日、難治性肉腫モデルマウスに対するがん治療用ヘルペスウイルスによる腫瘍抑制効果を証明したことを発表しました。同大学外科学講座の八田雅彦病院助教、海堀昌樹診療教授、東京大学医科学研究所附属病院脳腫瘍外科の藤堂具紀教授らの共同研究によるものです。
難治性肉腫のうち、発生部位の限られた平滑筋肉腫に対しては、発生部位にかかわらず手術が根治的な治療法ですが、進行期平滑筋肉腫は予後不良であり、二次的な化学療法では効果がありません。また、横紋筋肉腫に対しては、手術、放射線療法、化学療法を併用した集学的治療が標準治療となっています。しかし、成人の横紋筋肉腫の治癒率は向上しておらず、予後は極めて不良です。そのため、再発転移が生じた場合や成人の難治性肉腫の患者さんに対する新しい治療の研究開発が急務となっています。
研究グループは、難治性肉腫に対する新たな革新的治療法の研究開発として、制限増殖型遺伝子組換え単純ヘルペスウイルス1型(T-01)を検討。T-01は、藤堂具紀教授と第一三共が共同開発したがん治療用ウイルス製剤テセルパツレブ(製品名:デリタクト)とほぼ同じ構造を持つがん治療用ウイルスです。
T-01の腫瘍抑制効果を証明するために、マウス肉腫両側の皮下腫瘍モデルを作製し、片側にのみ T-01 を接種しました。T-01接種側では低濃度、高濃度ともに腫瘍の体積増大に有意な抑制効果を認めました。さらに、T-01非接種側でも有意な抑制効果を認めました。この結果は T-01が濃度依存性に腫瘍増殖を抑制し、さらに遠隔部位に対しても濃度依存性に間接的な抗腫瘍効果があることを示唆しています。
さらに、摘出した腫瘍細胞を調べた結果、T-01を接種した側ではリンパ球の細胞増加が認められ、非接種側でも増加傾向が認められました。
最後に、全身性の抗腫瘍効果による生存延長効果を確認するため腹膜播種モデルによる実験を実施し60 日間の観察を行いました。T-01を投与しないマウスと、投与回数を1週間投与、2週間投与、4週間投与のグループで比較したところ、投与していないマウスが全て死亡したのに対し、4週間投与グループでは 100%の生存率が認められました。
研究グループは本研究の意義と将来への展望として、次のように述べています。
「切除不能な横紋筋肉腫、平滑筋肉腫に対して今回使用した T-01と抗がん剤、免疫チェックポイント阻害薬などと併用した新しい革新的な治療戦略が考えられます。今後は臨床応用として横紋筋肉腫・平滑筋肉腫切除不能例に対して体外・開腹/腹腔鏡アプローチでの T-01の腫瘍内投与を行う臨床試験を視野に入れ、当大学が東京大学と連携し難治性肉腫に対する国内外における代表的な治療施設を目指していきたいと考えております」