難治性前立腺がんに対するアルファ線で攻撃する新たな治療薬[At-211]PSMA5の開発に成功

2022/12/05

文:がん+編集部

 難治性前立腺がんに対し、アルファ線で攻撃する新たな治療薬を用いた医師主導試験の準備が開始されました。

[At-211]PSMA5の有効性と安全性を評価する医師主導試験の準備を開始

 大阪大学大学院医学系研究科は2022年11月8日、前立腺がんに発現する前立腺特異的膜抗原「PSMA」を標的とした新たなアルファ線治療に用いるアスタチン標識PSMAリガンド([At-211]PSMA5)の開発に成功し、医師主導試験の準備を開始したことを発表しました。

 前立腺がんの手術を行った後の再発に対しては、ホルモン療法が行われますが、ホルモン療法抵抗性で多発転移を伴う場合は有効な治療法が限られます。ホルモン療法抵抗性の前立腺がんで特に強い発現が認められるPSMAを標的とした治療法は、全身に多発転移を認める場合でも治療効果が期待されます。

 研究チームは、PSMAを標的とした新たな前立腺がんに対するアルファ線治療を目的として、複数のPSMAリガンドをアルファ線核種のアスタチン(At-211)で標識を行い、 [At-211]PSMA5の開発に成功。本放射性リガンドを前立腺がんのモデルマウスに単回静脈内投与を行ったところ、腫瘍に高集積するとともに、腫瘍の退縮効果が長期間持続することが確認されました。投与後のマウスに大きな体重の変動はなく、腎臓などのリスク臓器にも大きな副作用は認められませんでした。

 2年後に、[At-211]PSMA5を安全性と有効性を評価する医師主導試験の開始を目指し、治験までに必要な非臨床試験の実施準備が開始されました。

 研究チームは本研究成果の意義として、次のように述べています。

 「多発転移を伴うホルモン療法抵抗性の患者さんには化学療法などが実施されますが、副作用が少なくありません。一方、核医学治療では重篤な副作用を認めることは稀であり、かつ飛程の短いアルファ線を用いた治療では専用の病室への入院が不要です。アスタチンは加速器を用いた国内製造が可能であり、製造拠点を整備することで、多くの患者さんに外来治療として実施できることが見込まれます。将来的には日本発の治療として、世界中で治療を必要としている前立腺がんの患者さんに用いられることが期待されます」