ALK融合遺伝子陽性肺がんの薬剤抵抗性を解除する新規治療法を開発

2023/02/15

文:がん+編集部

 ALK融合遺伝子陽性の肺がんに対する薬剤抵抗性を解除する、新たな治療法が開発されました。

治療初期からALK阻害薬とEGFR阻害薬の併用で、薬剤抵抗性を克服

 京都府立医科大学は2023年1月27日、ALK遺伝子に異常がある肺がん(ALK 融合遺伝子陽性肺がん、以下、ALK肺がん)に対する薬剤抵抗性を解除する新たな治療法を開発したことを発表しました。同大学大学院医学研究科 呼吸器内科学の片山勇輝大学院生、山田忠明准教授、髙山浩一教授、同創薬センターの酒井敏行特任教授、がん研究会がん化学療法センター基礎研究部の片山量平部長らの研究グループによるものです。

 ALK肺がんに対しては、ALK阻害薬が高い治療効果を示します。しかし、「初期治療抵抗性」により、一部のがん細胞が生き残ると、やがて耐性化し再発してしまいます。そのため、複数の研究グループが、ALK阻害薬の耐性化に関わる原因因子を見つけ出し、新しい治療法を検討してきました。しかし、耐性にはさまざまな原因が影響するため、耐性化の克服は非常に難しいことがわかっていました。

 こうした現状を打破するために、研究グループは今回、ALK阻害薬による治療の開始後にわずかに生き残る細胞の「初期治療抵抗性」を明らかにすることを目的に研究を実施しました。ALK肺がん細胞に、新規ALK阻害薬「ロルラチニブ」を投与すると、一部のがん細胞が「初期治療抵抗性」により生き残りますが、今回の研究により、まず、この抵抗性が起こる仕組みとして「EGFRシグナルの活性化」が関与することが明らかになりました。具体的には、ロルラチニブにさらされたがん細胞では、EGFRと結合し活性化させる物質であるHB-EGF が増加し、EGFRシグナルを活性化させていました。さらに、この活性化には、「JNK/c-Junシグナルの活性化」が重要な役割を果たすこともわかりました。

 ALK肺がんのロルラチニブによる初期治療抵抗性にEGFRシグナルの活性化が関与するとわかったので、これを克服するために研究グループは、EGFR阻害薬である「エルロチニブ」を初期から併用する実験を実施。その結果、併用により、がん細胞の増殖や生存がより強く抑制されることがわかりました。この併用は、EGFRタンパク質を高発現するALK肺がん細胞では細胞増殖の抑制効果が強い一方で、EGFRタンパク質を発現しないALK肺がん細胞では効果が高くないこともわかりました。さらに、ALK肺がん細胞を用いた動物実験で、ALK阻害薬とEGFR阻害薬の併用治療は強い抗腫瘍効果を示し、腫瘍の増大を有意に抑制しました。最後に、ALK陽性肺がん患者さんの腫瘍組織や臨床データを使った解析も行い、EGFRタンパク質が高発現していた肺がん患者さんではALK阻害薬の治療効果が乏しく、生存期間も短い傾向であることが確認されました。

 これらのことから、EGFRタンパク質が高発現しているALK肺がんでは、ALK阻害薬に対する初期治療抵抗性メカニズムとしてEGFRが活性化し、一部の細胞が生き残りますが、治療初期からALK阻害薬とEGFR阻害薬を併用することで、こうした抵抗性を克服し、がん細胞の増殖を強く抑制できることが明らかになりました。

 研究グループは、今後の展開と社会へのアピールポイントとして次のように述べています。

 「本研究の成果は、難治性腫瘍の代表である肺がんのうち、ALK融合遺伝子を有する肺がん患者さんの中で、EGFRタンパク質の発現の強さでALK阻害薬が効きにくいALK肺がんを判断できることを示しました。さらに、EGFRタンパク質が高発現しALK阻害薬が効きにくいALK肺がんでは、新規ALK阻害薬ロルラチニブと EGFR阻害薬の併用治療が、がんの初期治療抵抗性を克服し、再発までの期間を大幅に伸ばせる有効な治療法であることが明らかになりました。この治療法が実際の患者さんの治療へと発展すれば、患者さんの治療成績を向上させると同時に、肺がんの個別化医療の推進に大きく貢献することが期待できます」