進行がん患者さんが過ごす場所は生存期間にほとんど影響せず
2023/05/09
文:がん+編集部
進行がん患者さんが、自宅で過ごした場合と緩和ケア病棟で過ごした場合の生存期間の違いについて検証した結果、それぞれの場所で受けた治療・ケアの影響を考慮しても、生存期間にほとんど影響がないことがわかりました。
最期の時間を過ごした場が生存期間に影響を与えるのかについて改めて検証する必要も
筑波大学は2023年4月19日、進⾏がん患者さんが、自宅で過ごした場合と緩和ケア病棟で過ごした場合の生存期間の違いについて検証した研究結果を発表しました。同大学医学医療系の濵野淳講師らの研究グループによるものです。
以前の研究から、病院で亡くなった進⾏がん患者さんと自宅で亡くなった進行がん患者さんの生存期間は同等、もしくは自宅で亡くなった進行がん患者さんの⽅が、生存期間が長い可能性があることがわかっていましたが、最期の時間を過ごす場所で受ける治療・ケアによって生存期間に差があるかどうかについては明らかになっていませんでした。
研究グループは、自宅で治療・ケアを受けた進行がん患者さん(自宅グループ)と、緩和ケア病棟で治療・ケアを受けた進行がん患者さん(緩和ケア病棟グループ)の生存期間に違いがあるかどうかについて、治療・ケアの影響を考慮して検証。在宅医療を提供している国内の45医療機関で、2017年7⽉~12⽉の間に訪問診療を受けた進行がん患者さん988人、と、2017年1月~12月の間に、国内23医療機関で緩和ケア病棟に入院した進⾏がん患者さん1.890人を対象に、予後が「日の単位」「週の単位」「月の単位」の3つに層別化し、それぞれの生存期間を比較しました。
その結果、予後が月の単位、もしくは、週の単位と⾒込まれるグループでは、自宅グループの方が、緩和ケア病棟グループに比べて生存期間が有意に長かったことが確認できました。一方、予後が日の単位と見込まれるグループでは、最期の治療・ケアを受ける場所による生存期間の有意な差は確認されませんでした。また、自宅、もしくは、緩和ケア病棟⼊院中に受けた治療・ケアで生存期間を調整した結果、生存期間は自宅グループの方が有意に長いことがわかりました。
これらの結果から、亡くなるまでの期間の治療・ケアを、自宅で受けた患者さんと緩和ケア病棟で受けた患者さんの生存期間は、同等もしくは自宅で受けた患者さんの方が長い可能性が考えられました。
一方で、今回の調査では、亡くなるまでの症状や受けた治療・ケアが時間とともにどのように変化して生存期間に影響したかということや、治療・ケアを自宅で受ける患者さんと緩和ケア病棟で受ける患者さんに本質的な違いがある可能性などが検討されていない、またランダム化試験ではなく生存期間に影響する他の要素が考慮されていないという理由から、研究グループは、この調査結果を結論付けるには慎重な解釈が必要としています。
研究グループは今後の展開として、次のように述べています。
「今後、自宅や緩和ケア病棟で行われた治療・ケアが、時間とともにどのように変化して、症状や生存期間に影響しているかという点を考慮した調査を行い、最期の時間を過ごした場が生存期間に影響を与えるのか、について改めて検証する必要があります。また、患者さんごとに、最期の時間を過ごす場所を選ぶ際の背景因⼦などが本質的に違う可能性があるため、それらを考慮した研究方法、もしくは、解析方法が必要です」