乳がんのがん幹細胞の中にある抗がん剤などの治療に対して最も耐性を示す原因細胞を発見

2024/01/04

文:がん+編集部

 乳がんのがん幹細胞の中にある、抗がん剤などの治療に対して最も耐性を示す原因細胞を発見し取り出すことに成功しました。

術前化学療法の際に強心配糖体を併用することで、トリプルネガティブ乳がんの再発を予防できる可能性

 金沢大学は2023年11月16日、乳がん再発の原因細胞を発見し、取り出すことに成功したと発表しました。同大がん進展制御研究所/新学術創成研究機構の後藤典子教授らの研究グループによるものです。

 乳がん治療において、術前化学療法後に手術切除した乳腺組織内でがん細胞が残存する場合、転移や再発が起こりやすいことがわかっています。

 研究グループは、トリプルネガティブ乳がん組織内のがん幹細胞の集団の中から最も治療抵抗性のがん幹細胞亜集団を見つけ出すため、患者さんより採取したがん組織からがん幹細胞の特徴を持つ細胞を探し出し、細胞ごとに発現している遺伝子を網羅的に解析。その結果、がん幹細胞が5つの集団に分かれることを見いだしました。このうち2つの集団に分類されたがん幹細胞は、トリプルネガティブ乳がんが発生するとされる乳腺前駆細胞とよく似た性質を示しており、抗がん剤に対して最も治療抵抗性を示すことがわかりました。研究グループは、このがん幹細胞を「祖先がん幹細胞」と命名。また、Na-Kポンプ阻害薬である強心配糖体を投与すると、祖先がん幹細胞の治療抵抗性が弱まって、抗がん剤で死滅させられることがわかりました。

 これらのことから、術前化学療法の際に強心配糖体を併用することで、トリプルネガティブ乳がんの再発を予防できる可能性が示唆されました。

 研究グループは今後の展開として、次のように述べています。

 「さらなる非臨床試験を実施後、臨床試験によって効果が証明され、術前全身治療の標準治療として強心配糖体の追加が実施されるようになれば、乳がん患者さんの予後の改善に大きく役立てることが期待されます」