卵巣がんの新しい免疫回避メカニズムを解明
2018/05/09
文:がん+編集部
卵巣がんに関して、がん細胞がさまざまな方法で免疫細胞の攻撃から逃れる「がん免疫逃避」の新しいメカニズムが解明されました。これにより、卵巣がんに対する、新しいケモカイン阻害剤の開発につながる可能性が示されたそうです。
ケモカイン阻害剤、卵巣がんの新しい治療として有望な可能性も
京都大学は5月2日、がん細胞がさまざまな方法で免疫細胞の攻撃を逃れながら増殖する「がん免疫逃避」という仕組みについて、卵巣がんでのメカニズムを明らかにしたと発表しました。
近年、がん細胞がさまざまな方法で免疫細胞からの攻撃を逃れながら増殖する「がん免疫逃避」と呼ばれるしくみがわかってきました。免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブ(製品名:オプジーボ)などで有名になったPD-1/PDL1経路もそのひとつです。
卵巣がんの多くは進行した状態で発見され、治療後の再発も多いがんです。手術や抗がん剤治療を組み合わせた治療を行いますが、多くの患者さんが再発し、現状の治療法だけでは効果が十分ではありません。そのため、より有効な治療法の開発が求められています。
正常細胞の繊維化やがん化に関わる上皮間葉移行(Epithelial-Mesenchymal Transition:EMT)関連遺伝子群が高レベルで発現しているタイプの卵巣がん患者さんは、予後がとくに不良です。研究グループはこのことから、EMT関連遺伝子のひとつである「Snail」に着目し、免疫への影響を調べました。
これまで、SnailはEMTを引き起こして、がんの転移などを促進すると考えられてきました。しかし、動物実験で確認したところ、Snailに未知の免疫にかかわる機能があることがわかりました。さらに、試験管内での実験では、Snailには免疫抑制性細胞を誘導するためのケモカインというタンパク質に働きかけることがわかりました。この結果、卵巣がんがSnailの発現を通して免疫から逃れている仕組みのひとつと結論づけました。
今回の研究では、卵巣がんがSnailの発現を通して腫瘍内に免疫抑制細胞を誘導し、免疫から逃れているという新しい「がん免疫逃避」のしくみを初めて明らかにしたそうです。さらに、卵巣がんが分泌するケモカインと受容体との結合を阻害する薬剤が、卵巣がんの新しい治療に有望である可能性も示したとしています。
研究グループは、「今回の研究成果は、卵巣がんの免疫逃避のしくみを解明し、新規治療の開発につながる重要な成果であり、今後の臨床応用が強く期待されます」と述べています。