食道がん、放射線治療を併用した腫瘍溶解ウイルス「テロメライシン」で良好な研究成果

2019/01/29

文:がん+編集部

 食道がんに対して腫瘍溶解ウイルス「テロメライシン」と放射線治療を併用した臨床研究の結果が発表されました。大きな副作用もなく、13例中8例で食道がんが消失し、安全性と有効性が確認できたそうです。

手術や抗がん剤が困難な高齢食道がん患者への低侵襲で安全な治療法と期待

 岡山大学は1月8日、食道がんに対する放射線治療併用下の腫瘍溶解ウイルス「テロメライシン」に関する臨床研究の最終報告を発表しました。同大大学院歯薬学総合研究科消化器外科分野の藤原俊義教授と白川靖博准教授らの研究グループによるものです。この臨床研究では、基礎研究で認められていた「テロメライシンが放射線治療の効果を強める」という現象が確認され、13例中8例で食道の腫瘍が消失したそうです。副作用に関しても、大きな問題はなかったとのことです。

 テロメライシンは、岡山大学で開発された国産の抗がんウイルス製剤です。風邪ウイルスの一種であるアデノウイルスに、多くのがん細胞で活性化しているテロメラーゼという酵素のプロモーターを遺伝子改変で組み込み、がん細胞に特異的に感染させ増殖することでがん細胞を破壊できるようにしたウイルス製剤です。がん細胞を殺傷するだけではなく、放射線に対する感受性も強めます。

 2013年11月から、食道がん患者さんを対象としたテロメライシンの内視鏡的腫瘍内投与と放射線治療を併用する臨床研究が行われていました。治療法は、1日目に内視鏡で食道の幹部に0.2mlずつ5か所に計1mlのテロメライシンを投与。4日目から週10Gyの放射線治療を6週間、計60Gyを実施し、その間に18日目と32日目にテロメライシンの腫瘍内投与を追加されました。低容量7例、中容量3例、高容量3例、53~92歳の計13例の患者さんで実施されたそうです。

 評価可能な12例では、完全奏功が8例、部分奏功が3例で客観的奏効率は91.7%という結果でした。臨床的完全寛解は、ステージ1では83.3%、ステージ2/3では60.0%。有害事象は、発熱、白血球減少などが60%以上でみられ、無症候性の一過性のリンパ球減少が前例に認められましたが、すべての患者さんは回復しており、治療との明らかな因果関係を認める用量制限毒性は観察されませんでした。

 藤原俊義教授は「1992 年に米国テキサス州のMDアンダーソンがんセンターでウイルスを使ったがん治療の研究に関わって25年以上になります。1999年には、岡山大学で日本初のウイルスによるp53遺伝子治療を開始しました。2002年から開発を始めたテロメライシンが、やっと患者さんに役立てるかもしれないところまで来ました。やさしい治療を待つ食道がん患者さんに、早く届けられるように頑張っていきます」とコメントしています。

 高齢などの理由で手術や抗がん剤が困難な食道がん患者さんなどに、低侵襲で安全な治療法として期待されます。