多発性骨髄腫、薬剤耐性に関わるメカニズムを一部解明

2019/05/28

文:がん+編集部

 多発性骨髄腫の薬剤耐性に関わる遺伝子異常蓄積の分子メカニズムの一部が解明されました。新たな治療標的となる可能性があります。

「薬剤耐性を解決する治療法」という新たなコンセプトになる可能性

 京都大学は5月17日に、多発性骨髄腫における遺伝子変異蓄積の分子メカニズムの一端を解明したと発表しました。京都大学大学院医学研究科高折晃史教授、白川康太郎助教、山崎寛章研究員らの研究グループによるものです。

 抗がん剤治療を行っているがん患者さんの多くは、薬剤耐性により治療効果が減弱していきます。この薬剤耐性には、がんが経過とともに遺伝子変異を蓄積しクローン進化を引き起こすことが関与していると言われていましたが、その分子メカニズムはわかっていませんでした。今回、研究グループは、内在性のDNAシトシン脱アミノ化酵素であるAPOBEC3B(A3B)が、骨髄腫のゲノムに特定のパターンの遺伝子変異を蓄積し、またこの変異の修復過程で遺伝子欠失を起こすことを明らかにしました。

 APOBECはDNAシトシン脱アミノ化反応を触媒する酵素で、結果としてシトシンをチミンに変換し遺伝子変異を引き起こします。研究チームは、11種類あるAPOBECのうち多発性骨髄腫ではA3Bが過剰に発現していること、および、A3Bを過剰に発現している患者さんの治療成績が良くないことを見出しました。これらの結果は、多発性骨髄腫でA3Bが遺伝子変異蓄積の原因となっており、病状や治療成績の悪化、抗がん剤に対する薬剤耐性化に関係することを示していると考えられます。

 A3Bの酵素活性を抑制することで、多発性骨髄腫の遺伝子変異を制御し、従来の抗がん剤治療の効果を維持できる可能性があるとともに、A3Bの酵素活性の抑制が、多発性骨髄腫の課題のひとつである薬剤耐性を解決する治療法という新たなコンセプトになる可能性があります。また、APOBEC は乳がん、肺がん、膀胱がん、子宮頸がんなど、多くの種類のがんにも遺伝子変異を引き起こすことが報告されています。

 研究グループは、今回の解明について、「APOBECは発がんに関わる因子として近年注目が高まっています。腫瘍細胞由来のA3Bのゲノム変異作用を綺麗に検出できたときはたいへん感動しました。特に、DNA二重鎖の転写側の一本鎖に特異的に変異が入っていたり、全てのTCの部分に変異が入るわけではないことなど、これまでにAPOBECパターンと言われているフットプリントの特徴に新たな知見を加えるデータが意義深いと考えています」と、コメントしています。