早期大腸がんに対するESD、治療の第一選択となり得ることを前向きコホート研究で確認
2022/08/25
文:がん+編集部
転移リスクの少ない2cm以上の早期大腸がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を評価する前向きコホート研究の結果、高い治療結果が得られるとともに術後QOLを維持できることが確認されました。
長期観察の結果、5年の全生存率93.6%、疾患特異的生存率99.6%、腸管温存率88.6%
国立がん研究センターは2022年8月5日、早期大腸がんでESDを行った患者さん1,883人を対象にした「早期大腸がんに対するESDの多施設前向きコホート研究」の結果を発表しました。同研究センター中央病院とNTT東日本関東病院などの研究チームによるものです。
ESDは、同研究センターによる内視鏡用の高周波ナイフ(ITナイフ)の開発や手技の確立により開発された治療方法で、2006年4月に早期胃がんの内視鏡治療として保険適用されました。その後、早期大腸がんでの応用も進み、2012年4月に保険適用となりましたが、安全性や治療効果についてより長期的かつ大規模な報告が待たれていました。
今回のコホート研究では、2013年2月~2015年1月までに国内の20施設で大腸ESDが施行された患者さん1,883人が登録され、登録後5年間にわたり内視鏡と必要に応じた採血、CTなどで経過観察を実施しました。主目的は5年の全生存率、疾患特異的生存率、腸管温存率、副次的目的は5年の局所再発率、一括切除割合、有害事象発生割合で評価されました。
短期観察の結果、一括切除割合は97%で、治癒切除割合は91%でした。有害事象に関しては、穿孔2.9%、術後出血2.6%が認められましたが、多くが腸管を切除せず保存的な加療での対処が可能でした。0.5%で穿孔・出血のために外科手術が必要となりました。
長期観察の結果、5年の全生存率93.6%、疾患特異的生存率99.6%、腸管温存率88.6%で、治癒切除が得られた場合の腸管温存率は98%と非常に高い割合でした。また、治癒切除後の局所再発は0.5%で認められましたが、全例で内視鏡による追加治療が可能でした。
これらの結果から、2cm以上の早期大腸がんに対しESDを行った場合、高い割合で治癒切除が可能であり、長期的にもその状態が維持されることが明らかとなりました。また、安全性やQOLの観点からも優れていることが示されました。その一方で、大腸ESDで治癒切除が得られた場合は、局所再発だけでなく異時性大腸がんの発生に注意する必要が示唆され、術後の定期的な経過観察の必要性が明らかとなりました。
研究チームは展望として、次のように述べています。
「本研究において、転移リスクの少ない2cm以上の早期大腸がんに対し、ESDで治療を行った場合の長期的な安全性と治療効果が大規模なデータで初めて明らかになりました。またその治療結果も良好であることが消化器分野で世界的に権威のある国際的学術誌で発表されたことで、今後、世界的にもESDが標準治療となり、世界でも患者数の多い大腸がんのさらなる生存率の向上と、術後の患者さんのQOLの維持に大きく貢献することが期待されます。現在、海外においてはESDの難易度の高さからEMRが標準治療として位置づけられていますが、今後、ESD技術の習得がさらに進められると考えられ、当センターで開発したESD技術の世界的な普及にも積極的に貢献してまいります。また、本研究により2cm以上であっても転移リスクの少ない早期大腸がんであれば、再発リスクを抑えられ、術後のQOLも維持できるESDが治療の第一選択となることで、早期発見・治療のメリットがさらに増すことになります。日本においては、40歳以上での便潜血検査による毎年の大腸がん検診と、異常を認めた場合は内視鏡での精密検査が推奨されていますので、積極的な受診が強く望まれます。また、QOLの高い治療を望む場合は、任意型検診としての大腸内視鏡検査も選択肢とし、不利益と利益を理解した上での受診もお勧めします」