IL-34がトリプルネガティブ乳がんに及ぼす影響を解明

2022/11/04

文:がん+編集部

 IL-34が、トリプルネガティブ乳がんに及ぼす影響が解明されました。IL-34を標的とした治療が、トリプルネガティブ乳がん患者さんの予後を改善する可能性が示唆されます。

IL-34の発現診断→IL-34阻害薬の投与という新しいがん治療のコンセプトが生まれる可能性

 北海道大学は2022年10月20日、トリプルネガティブ乳がんにおいてIL-34が強い免疫抑制と抗がん剤抵抗性をもたらすことを発見したと発表しました。同大学大学院医学院博士課程特別研究員の梶原ナビール氏、同大学遺伝子病制御研究所病態研究部門免疫生物分野の清野研一郎教授、同大学大学院医学院組織細胞学教室、同大学病院乳腺外科、大阪労災病院乳腺外科、同大学医学部分子生物学教室らの共同研究グループによるものです。

 トリプルネガティブ乳がんは、ホルモン療法やHER2を標的とした分子標的薬の効果がなく、効果が期待できる薬剤が抗がん剤のみに限られます。そのため、治療に難渋するケースが多く、抗がん剤による副作用に苦しむ患者が多いのが現状です。

 研究グループはこれまでに、IL-34が、がんの悪性度に関わることやがんの進行を促進することを明らかにしてきました。特に、トリプルネガティブ乳がんにおけるIL-34の発現は他のタイプの乳がんよりも高く、IL-34の高発現が単独でトリプルネガティブ乳がん患者さんの予後不良因子となることを明らかにしています。さらに、実験用マウスを使った実験によりIL34がトリプルネガティブ乳がんの成長を促進することがわかっている一方で、そのメカニズムは解明されていませんでした。

 今回の研究ではまず、IL-34 を発現するマウストリプルネガティブ乳がん4T1細胞と、IL-34 を欠損させた4T1細胞をそれぞれ別の実験用マウスの皮下に注入することで、担がんマウスを作製。マウス生体内で増殖した各腫瘍内に浸潤している免疫細胞の種類や量を解析することで、がん細胞から産生される IL-34 がトリプルネガティブ乳がんの腫瘍環境にどのような影響を与えるのかを検証しました。

 さらに、トリプルネガティブ乳がんを自然発がんするマウスや患者由来乳がん組織から構築したミニ臓器にIL-34の阻害薬を投与し、同様の解析を実施。次に、IL-34を産生もしくは欠損した細胞を実験用マウスの皮下に注入し、抗がん剤を投与することで、トリプルネガティブ乳がんから産生されるIL-34が化学療法の効果に与える影響を調べました。また、1,083人の乳がん患者さんの臨床情報をもとに、全乳がん患者さんを4タイプ別(トリプルネガティブ、 HER2陽性、 Luminal A、 Luminal B)に分類し、マウス実験で得られた結果がトリプルネガティブ乳がん患者さんのリアルな腫瘍環境をどの程度反映しているかが検討されました。加えて、35人のトリプルネガティブ乳がん患者さんから新たに得られた腫瘍組織を用いて上記の結果の外挿性が評価されました。

 研究の結果、トリプルネガティブ乳がんにおいてIL-34が強力な免疫抑制と抗がん剤抵抗性を誘導することを発見しました。また、実験用マウスや患者さんから採取したトリプルネガティブ乳がん組織を使った実験により、IL-34の遮断がそれらを解除し、IL-34阻害薬と抗がん剤を組み合わせることで、がん細胞の成長を大幅に遅延させることを明らかにしました。

 研究グループは今後への期待として、次のように述べています。

 「本研究によって、トリプルネガティブ乳がんにおいて IL-34が骨髄由来抑制細胞を介して腫瘍の成長及び予後不良をもたらすことが示されました。したがって、IL-34を標的とした治療は、トリプルネガティブ乳がん患者の予後を改善する可能性があります。本研究開発の推進により、トリプルネガティブ乳がん局所における IL-34の発現診断→IL-34阻害薬の投与という新しいがん治療のコンセプトが生まれる可能性があります。今後 IL-34阻害薬の開発が進み、臨床応用されることが期待されます」