「胆道がんにおけるシェアード・ディシジョン・メイキングの実態と課題」メディアセミナーレポート
2024/10/08
文:がん+編集部
「後悔しない選択のために~胆道がんにおけるシェアード・ディシジョン・メイキングの実態と課題~」と題したメディアセミナーが開催されました。
SDMの実現は多種職が連携したチーム医療が重要
アストラゼネカ株式会社は2024年9月27日、「後悔しない選択のために~胆道がんにおけるシェアード・ディシジョン・メイキングの実態と課題~」と題したメディアセミナーを開催。本セミナー第1部では、富山大学学術研究部医学系内科学第三講座の安田一朗教授による講演、第2部では、京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野の中山健夫教授による講演、第3部として、安田教授と中山教授によるパネルディスカッションが行われました。
第1部では胆道がんに関する現状や治療についての講演が行われ、胆道がんのプレシジョン・メディシンの現状などが説明されました。
胆道がんは、5大がんと比べると患者数は少ないものの、がんによる死因の6位であり、5年生存率は約25%と予後の悪いがんです。治療は、切除できれば手術が行われますが、切除不能な場合は化学療法や放射線治療などを組み合わせた治療が行われます。少し前までは化学療法の選択肢が少なく治療法が限られていましたが、現在は5つのレジメンの有効性が確認され増えてきています。
また、胆道がんに特徴的な遺伝子変異が見つかってきており、遺伝子変異に応じた分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を使うプレシジョン・メディシンが(個別化医療)徐々に行われるようになってきています。
しかし、これらの新しい治療法はまだ十分な効果を上げているとは言えません。そのため、胆道がんの治療には依然として早期発見早期治療が重要となります。その一方で、胆道がん特有の有効なバイオマーカーがまだ見つかっておらず、早期発見は難しいのが現状です。CT、MRI、上部内視鏡検査、超音波内視鏡検査など有用な検査はありますが、侵襲性が高いため、血液検査や腹部超音波検査など侵襲性の低い検査で、胆道がんリスクの高い患者さんを早期に見つけられるような検査が、今後は重要となります。
第2部は「Shared Decision Making(シェアード・ディシジョン・メイキング:SDM)とは何か?~EBMの原点からその先~」と題した講演が行われました。
EBM、すなわちエビデンス(科学的根拠)に基づく医療とは、エビデンスだけを重視して行う医療ではなく、最良の研究によるエビデンス、医療者の臨床的な熟練、患者さんそれぞれの価値観、患者さんの置かれた状況の4つの要素の統合によるものです。つまり、エビデンスに基づく医療とは、個々の患者さんのケアに対する意思決定過程で、現在得られる最良の根拠を、良心的、明示的、かつ思慮深く用いることだと言われています。
SDMは「共有意思決定」とも言われ、エビデンスの限界と価値観の多様性の調和を目指す新たな医療コミュニケーションです。共有するのは、情報、目標、責任の3つです。情報は、医療者からの治療選択肢、その益と害、コストで、患者さんからは、価値観、ライフスタイル、大事にしていることや楽しみにしていることなどです。目標は、医療者と患者さんの目指すことをすり合わせること、そして意思決定が共有できればおのずと責任が共有されます。医療者、患者さんのどちらか一方に責任を押し付けない、という考え方です。
インフォームドコンセントとSDMの違いは、インフォームドコンセントは、医療者が専門知識と経験により、良い答えを知っていて、医療者が推奨される選択肢への着地を期待して行われます。一方SDMは、エビデンスの確実性が高くない場合に大切になります。確実性が高くない場合は、患者さんも医療者も着地点(目標)がわかりません。そのため、双方向のコミュニケーションを通して、目指す目標と、そこに近づく方法が共有されていくイメージです。つまり、どうしてよいかわからないときは、相談して、協力して、一緒に悩んで決める、困難な意思決定と合意形成を合わせて行っていくということです。SDMは患者さんを大事にする良い医療というのは、半分あっていて半分間違っています。なぜなら、SDMでは患者さんにとって知りたくないつらい情報を知らないと意思決定に参加できないからです。また、SDMにおける医療者は、今まで以上に患者さんから信頼を得られるかが問われるようになると思います。限られた時間では、主治医が患者さんの情報を全て把握することはできません。多種職が連携したチーム医療があってこそSDMが実現できるのです。