抗がん薬の副作用予測を可能にする技術を開発

2019/12/02

文:がん+編集部

 コンピュータシミュレーションと数学的な表現で、抗がん薬の副作用を予測する技術が開発されました。

新規抗がん薬の治療効果予測への応用にも期待

 神戸大学は11月18日、薬物代謝酵素の異常で起きる抗がん薬の副作用を分子シミュ―レーションと数理モデル化によって明らかにし、高精度の副作用予測を可能にしたことを発表しました。同大医学部附属病院の髙岡裕准教授らの研究グループによるものです。

 抗がん薬治療の有効性や副作用は、薬物代謝、薬効の2つから予測が可能ですが、個人差があり、遺伝子によって影響を受けます。大腸がん治療で使用されるイリノテカンは、「UGT1A」という遺伝子の変異があると、薬物代謝が困難になり副作用が強く発現することが知られているため、イリノテカンの投与前にはこの遺伝子に関する検査が必須となっています。

 近年、遺伝子解析技術の進歩により、新たなUGT1A1の遺伝子変異が相次いで発見され、現在70種類の変異が報告されています。ところが、この新たに見つかっている遺伝子変異の薬物代謝能は不明で、抗がん薬投与によりどのような副作用が起こるかはわかっていません。

 研究グループは、分子シミュレーション解析と細胞実験の結果から、UGT1A1の薬物代謝を方程式にしました。分子シミュレーション解析結果を、この方程式に代入することで、UGT1A1による抗がん薬の薬物代謝能を高精度で予測することに成功しました。すでに抗がん薬の代謝能がわかっている遺伝子変異に関して確認したところ、予測結果と実測値がほぼ同じでした。

 また、研究グループは今後の展開として次のように発表しています。「今回の研究成果により、治療開始前に抗がん剤の副作用予測が可能となったことに加えて、同じ研究手法を適応することで、抗がん剤の薬効予測が可能となります。薬効予測についても、今年の8月に運用を終了した京コンピュータを用いて基礎解析を終えています。そして現在は、肺がんを対象として治療前の薬効予測 (治療効果予測) を可能にすべく解析を進めています」