嚢胞性膵腫瘍IPMN、術後再発パターンを解明

2020/01/16

文:がん+編集部

 嚢胞性膵腫瘍「膵管内乳頭粘膜液性腫瘍(IPMN)」の術後再発パターンが解明されました。膵臓がんの早期発見や再発予測が期待されます。

再発の可能性が高いIPMNのスクリーニングを可能に

 東北大学は2019年12月16日、IPMNの手術を受けた患者さんを対象に行った研究で、再発に特徴的なパターンを発見したことを発表しました。手稲渓仁会病院・消化器病センターの永井一正医師(現、東京医科大学・消化器内科)、札幌東徳洲会病院・医学研究所の水上裕輔部門長(旭川医科大学医学部内科学講座 准教授)、小野裕介主任研究員、および同病理(現、東北大学)大森優子助教らの研究チームによるものです。

 膵臓にできる腫瘍性の嚢胞のうち、代表的な病気がIPMNです。囊胞の多くは良性腫瘍だが、それ自体ががん化することがあり、また、囊胞とは異なる位置に膵がんが発生することや、大小の膵囊胞が多発し、発癌の芽(前駆病変)が膵臓全体に拡がっている可能性があるといった特徴があります。膵臓がんの95%ではKRAS遺伝子変異でみられ、IPMNの半数ではGNAS遺伝子に変異がみられます。これらの遺伝子変異は、多発する病変を見極める目印となりますが、膵嚢胞の患者さんの膵内で、がん初期病変がどのように広がり、再発に至るかは明らかになっていませんでした。

 研究グループは、膵臓内での病変の分布と遺伝子異常の連続性を解析するため、IPMNで外科手術を受けた121人の患者さんの組織から病理学的特徴を洗い出しました。そのうちの9例の解析を行った結果、再発病変の多くが初発腫瘍と同一の芽から発生し、発育場所が移動して2次病変が発生したものであること、再発は、膵管内の播種によって生じると考えられ、膵体尾部に発生する病変、IPMNの一亜種である胆膵型と呼ばれる組織型の病変に見られやすいことを明らかにしました。

 この発見により、再発の可能性の高いIPMN患者さんをスクリーニングすることが可能となるため、全患者さんを頻繁に精密検査する必要がなく、身体的・経済的な負担を少なくすることができます。

 研究グループは今後について、次のように述べています。

 「私たちの研究成果は、発がんの初期にみられる遺伝子変異の組み合わせによって、膵がんの発生・再発の予想が可能であることを示唆するものです。例えば膵液などを利用して、膵臓全体の遺伝子情報を得ることにより、一歩踏み込んだ再発予測が実現できる可能性があり、がんゲノム医療の新たな一手になると考えています。現在、研究チームでは膵液や十二指腸液の変異プロファイリングによる、膵がんのリスク評価の有用性を検証する新しい臨床研究にも着手しています。このような研究が、近い将来、膵がんの早期発見の効率化をもたらす検査法になることを期待しています」