がんが免疫の攻撃から逃れる新メカニズムを発見
2020/02/25
文:がん+編集部
がんが、免疫の攻撃から逃れる新しい仕組みが発見されました。免疫チェックポイントとは異なるメカニズムです。
免疫チェックポイント阻害薬と異なる新たな免疫療法の可能性も
筑波大学は2月11日、がん細胞が「可溶型CD155」というタンパク質を産出することで、免疫細胞の攻撃から逃れるという仕組みを発見したことを発表しました。同大医学医療系の渋谷和子教授らの研究グループによるものです。
正常な細胞ががん化すると、がん細胞の表面にCD155タンパク質(膜型CD155)が増加します。免疫細胞は、この膜型CD155と免疫細胞上の活性化受容体「DNAM-1」が結合することで、がん細胞を攻撃し排除しています。また、がん患者さんは、健常者と比較してCD155の変異体「可溶型CD155」が血清中で高いことがこれまでに報告されています。
研究グループは、可溶型CD155を産出する悪性黒色腫の腫瘍株と、産出しない腫瘍株をマウスに移入し観察。結果、可溶型CD155を産出する腫瘍株で、有意に多くの肺転移が起こることを見出しました。また、可溶型CD155が免疫細胞であるNK細胞上のDNAM-1に結合することで、DNAM-1と膜型CD155の結合を阻害し、NK細胞ががんを排除できなくなっていることもわかりました。
この仕組みは、免疫細胞の1つT細胞の攻撃から逃れる免疫チェックポイントとは異なる、「がんが免疫の攻撃から逃れるもう1つの仕組み」で、がんの免疫療法として新たな可能性があります。
研究グループは、今後の展開として次のように述べています。
「本研究により、がん細胞は可溶型CD155を分泌することにより免疫逃避を行っていることが明らかになりました。このことから、体内から可溶型CD155を除去すれば、身体が本来持っている免疫システムによってがん細胞が排除されると考えられ、がんの新しい治療法の開発につながることが期待されます。既存の免疫チェックポイント阻害剤は、免疫細胞への抑制シグナルの阻害による治療法でした。一方、可溶型CD155の除去は、活性化シグナルを促進するものであり、作用機序が全く異なります。従って、免疫チェックポイント阻害剤の効果が薄い患者への治療にも役立つ可能性があります」