古典的ホジキンリンパ腫で、抗PD-1抗体が効く仕組みの一端を解明

2020/03/11

文:がん+編集部

 古典的ホジキンリンパ腫で、免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1抗体が効く仕組みの理由の一端が解明されました。免疫細胞ががんにおよぼす病態の解明や、新たな治療法の開発につながると期待されます。

がん細胞から腫瘍関連マクロファージへ、細胞膜にあるPD-L1/L2が受け渡される

 東海大学は2月25日、悪性リンパ腫の1つ「古典的ホジキンリンパ腫」に、抗PD-1抗体が効く仕組みの理由として、がん細胞にあるPD-L1/L2が、周りの単球/腫瘍関連マクロファージ(TAMs)へ受け渡される、という巧妙な現象が関わっていることが明らかになったと発表しました。同大医学部先端医療科学の川島雅晴大学院生、幸谷愛教授、同大病理学カレーラス・エステバン・ジュアキム講師、中村直哉教授らの研究グループによるものです。

 古典的ホジキンリンパ腫は、抗PD-1抗体による奏効率が65~87%と、他の固形がん(奏効率20~30%)と比べて高いことが報告されています。ホジキン細胞だけでなく、ホジキン細胞周辺の単球/TAMsにもPD-L1が発現しており、これらによって、ホジキン細胞に群がって集まったPD-1陽性T細胞が抑制されると考えられており、そのメカニズムは重要と考えられてきたものの、これまで不明でした。また、ホジキン細胞は周囲の免疫細胞と接触していることもあるものの、その接触の意義も不明。さらに、同疾患では、単球/TAMsが多いほど予後不良といわれており、多くの検討課題がありました。

 研究グループは、患者さんの検体を用いた検討により、がん細胞と接触するTAMsのPD-L1/L2の発現は、がん細胞との接触がないTAMsよりも高いことを発見。これに「トロゴサイトーシス」と呼ばれる現象が関わっていることがわかりました。トロゴサイトーシスとは、ある細胞が別の細胞上のタンパク質を膜ごと奪い取る現象のこと。つまり、TAMsが、がん細胞の細胞膜にあるPD-L1/L2を丸ごと奪い取った結果、TAMsでPD-L1/L2の発現が高まっていたのです。

 研究グループは、今後の展開として次のように述べています。

 「本研究の成果から、PD-L1/L2がトロゴサイトーシスによりホジキン細胞から周囲の腫瘍関連マクロファージに移ることが明らかになりました。今回の結果は古典的ホジキンリンパ腫において抗PD-1抗体の効果が高い理由の1つとして説明することができ、がん細胞と腫瘍関連マクロファージの直接的な接触を阻害することが有望な治療となり得ることが示されました。また、古典的ホジキンリンパ腫においてがん細胞周囲に集まる他の免疫細胞や分子においても、トロゴサイトーシスが生じてがん微小環境(がん組織の中で形成される免疫から逃れるためのネットワークのこと)におよぼす意義があるか検証することは、今後の課題です。またがんのみならず、現在研究を行なっているB型肝炎の制御法開発においても、肝炎感染細胞が周りの細胞との直接的な接触を介して生存に有利な環境を形成している可能性はあり、検討すべき課題です」