がん細胞の生死を決める分子構造、ショウジョウバエモデルで解明

2021/05/13

文:がん+編集部

 ショウジョウバエによる研究で、がん細胞の生死を決める分子構造が解明されました。

アミノ酸「メチオニン」の量を調節することで、がん化を抑制できる可能性

 理化学研究所は4月27日、ショウジョウバエによる研究で、がん細胞の生死を決める分子構造を解明し、食餌中のアミノ酸の1つを減らすことで、がん化する細胞の増殖が抑制されることを発見したことを発表しました。同研究所生命機能科学研究センター動的恒常性研究チームのユ・サガンチームリーダー、開拓研究本部Yoo生理遺伝学研究室の西田弘大学院生リサーチ・アソシエイト、神戸大学大学院医学研究科細胞生理学部門の南康博教授らの国際共同研究グループによるものです。

 細胞のがん化では、ショウジョウバエと哺乳類で共通する分子機構の存在が知られています。細胞ががん化するときに、「がん遺伝子」と呼ばれる遺伝子が活性化し、細胞増殖が促進されますが、通常はがん遺伝子が活性化すると細胞死も誘導され、簡単にがん化しない仕組みが備わっていると考えられてきました。

 研究グループは、がん遺伝子「Src」に着目。細胞のがん化と細胞死を制御する分子機構をショウジョウバエモデルで調べた結果、Srcは細胞増殖の結果として細胞死を誘導するのではなく、それぞれを独立的かつ同時に駆動していることがわかりました。さらに、細胞死には影響せず、細胞増殖だけを止める方法がないか探索。食餌中のアミノ酸「メチオニン」の量を減らすと細胞増殖だけを抑制できたことから、摂取するメチオニンの量を調節することで、がん化を抑制できる可能性が示されました。

 研究グループは今後の期待として、次のように述べています。

 「がん遺伝子が、細胞増殖に加えて細胞死を促進することはよく知られていましたが、これまでその詳しい分子機構は未知でした。本研究は、ショウジョウバエの成虫原基を用いて、がん遺伝子Srcが細胞増殖と細胞死を同時に駆動することを明らかにしました。細胞ががん化する分子機構は、ショウジョウバエと哺乳類で同じ分子機構が存在することが知られているため、本研究成果は、将来ヒトのがん発生機構の解明にも貢献すると期待できます。ヒトの多くのがんでも、Srcが活性化していることから、今回のショウジョウバエで発見した分子機構がヒトの細胞のがん化機構にも関わっているのか、また、ヒトにおけるメチオニンと細胞増殖の抑制の関係を調べることが今後の課題です」