難治性肝臓がん・胆道がんの新たな診断・治療につながる手法を開発
2021/08/20
文:がん+編集部
手術前のCTやMRI検査で発見できなかった微小な肝細胞がんを手術中に見みつける手法と、肝臓・胆道がんの診断・治療につながる新たな手法の開発に成功しました。
術前に発見できなかった微小がんを手術中に見つける手法
関西医科大学は8月10日、2つの蛍光イメージング※を併用することで、手術前のCTやMRI検査で発見できなかった微小な肝細胞がんが手術中に検出できる手法の開発に成功したことを発表しました。また、蛍光イメージングで使用される薬剤が、肝臓がんや胆のうがんに対する光線力学的治療に有効であることも発見しました。同大外科学講座の海堀昌樹診療教授、松井康輔講師、小阪久診療講師らの研究グループによるものです。
肝臓がんの外科治療では、切ってはならない部分を傷つけない「安全性の確保」と、切り取るべき組織を全て切除する「治療効果を最大化」という2つの要素が同時に求められます。しかも、がん細胞はその成長度合いによってサイズが異なり、肉眼で必ず確認できるとは限らないため、これまでの手術では微小ながんが見落とされてきた可能性があります。そのため、正常な組織とそうでない組織を正確に見分ける必要があり、これまで肝臓の手術中に切除すべき区域を識別・区別する手法の開発が数多く行われてきました。
その成果の一つが、インドシアニングリーン(ICG)という染料で手術中にリアルタイムに目的の組織を光らせる「ICG蛍光イメージング」と呼ばれる手法です。しかし、この手法はがん細胞を高精度に見極めることはできますが、陰性か陽性かを正しく判断する「特異度」は約50%程度と高くなく、完全に信頼がおけるものではありませんでした。アミノレブリン酸(5-ALA)を使った「5-ALA蛍光イメージング」は、特異度は極めて高く感度・正診率は約60%弱という、ICG蛍光イメージングとは真逆の特徴を持っています。
研究グループは、この2つの蛍光イメージングを同時に使うことで、見落とされがちだった微小な肝細胞がんを手術中に検出できるのではないかと考え研究を行いました。その結果、感度・特異度・正診率の全てを高い水準で維持することに成功しただけでなく、新たに発見した5つの微小腫瘍の全てで悪性所見が認められました。そのうち2例が肝細胞がん、3例が大腸がん肝転移でした。従来の単独の蛍光イメージングよりも高い特異度を導き出したのは、同研究が世界初です。
さらに研究グループは、ICGをがん細胞に集まる特性をもった「ラクトソーム」で運ばせ、診断能力を分析。がん細胞に集まった「ICGラクトソーム」に対し、光線力学的治療法試し、治療効果を検討しました。光線力学的治療は、病巣部分に光増感剤を集積させ、そこに光を照射することにより発生する活性酸素でがんを死滅させる治療法です。マウスによる動物実験の結果、肝臓がん、胆のうがんに対しICGラクトソームが集積するしていることを確認。また、光照射によって、1回目と2回目の照射で顕著な抗腫瘍効果が認められました。
研究グループは今後の期待として、次のように述べています。
「本研究成果は、患者さんの体への負担を抑えながら肉眼的には見えにくい微小がん病変を可視化でき、正確な手術中診断が可能となることで、より根治性の高い手術が実現する可能性を導きました。つまり、これまで以上に安全かつ的確な肝臓切除術が実現可能となり、肝がん治療成績の向上に寄与することが期待されます。またICGラクトソームは、マウス肝がんおよび胆のうがんに対する診断だけでなく、光線力学的治療として有効であり、将来の難治性肝胆道がんに対する治療法の一つとなる可能性があります」
※手術前に蛍光物質を含む、特定の組織にだけ集まるよう加工した薬剤を投与し、近赤外光を照射することで薬剤が集まった部位を光らせる手法。