HER2陽性大腸がんに対する抗HER2抗体併用療法の有効性を確認
2021/12/14
文:がん+編集部
HER2陽性の大腸がんに対する「ペルツズマブ(製品名:パージェタ)+トラスツズマブ(製品名:ハーセプチン)」の抗HER2抗体併用療法の有効性が医師主導治験「TRIUMPH試験」で確認されました。
治療抵抗性後新しく出現したがんゲノム異常の考慮で、HER2陽性大腸がんの治療をより改善できる可能性
国立がん研究センターは11月12日、HER2陽性の治癒切除不能な進行・再発大腸がんに対する、「ペルツズマブ+トラスツズマブ」の抗HER2抗体併用療法の有効性と安全性を評価するTRIUMPH試験の良好な結果を発表しました。
TRIUMPH試験は、治療に抵抗性となった治癒切除不能な進行・再発のHER2陽性大腸がん患者さんを対象に、「ペルツズマブ+トラスツズマブ」併用療法を評価する医師主導試験です。対象の患者さんには、「GI-SCREEN-Japan ※1」の基盤を活用した腫瘍組織遺伝子パネル検査または、「GOZILA Study ※2」で用いられているリキッドバイオプシーによるスクリーニングが行われました。検査の結果、腫瘍組織遺伝子パネル検査の147人中27人、リキッドバイオプシー1.107人中25人がHER2陽性の大腸がんと診断されました。このうち30人がTRIUMPH試験に登録され、「ペルツズマブ+トラスツズマブ」併用療法による治療を受けました。
解析の結果、腫瘍組織遺伝子パネル検査を受けた患者さんの30%、リキッドバイオプシーを受けた患者さんの28%で部分奏効以上が認められました。治療に抵抗性となったHER2陽性大腸がん患者さんにとって、従来使用されていた抗がん剤と比べて優れた有効性がある可能性が示唆されました。
また、本試験では、患者さん個々の遺伝子情報と有効性の関連を調べるため、腫瘍組織遺伝子パネル検査やリキッドバイオプシーによる経時的な検査を実施。その結果、治療前の腫瘍組織遺伝子パネル検査、リキッドバイオプシーそれぞれで、HER2の遺伝子コピー数が多い、かつ他のがんゲノム異常が併存していない患者さんは、それ以外の患者さんと比べて有効性が高いことが見いだされました。
さらに治療が効かなくなった後のリキッドバイオプシーによる結果で、さまざまながんゲノム異常が新しく出現していることが判明。そのため、新しく出現したがんゲノム異常も考慮することで、HER2陽性大腸がんの治療をより改善できる可能性が示唆されました。
同研究センターは展望として、次のように述べています。
「本研究成果により、世界初となるHER2陽性大腸がん患者さんに対する有効な治療法の誕生に繋がることが期待されます。またリキッドバイオプシーが大腸がん患者さんに対する治療薬の選択や有効性の予測、耐性因子の発見に活用されていく可能性があります。国立がん研究センター東病院は、製薬企業が積極的に取り組みにくい希少なサブタイプに対して有効な治療を開発するため、SCRUM-Japanの基盤を活用してスクリーニングプラットフォームの構築や医師主導治験の実施に積極的に取り組んできました。今後も一人でも多くの患者さんが最善の治療を受けられるよう、がん個別化治療の実現を目指してまいります」
※1国内の主要ながん専門病院や大学病院と協働して、進行消化器がんの患者さんの腫瘍組織を遺伝子パネル検査で解析し、治療薬を届ける全国がんゲノムスクリーニングプロジェクト。
※2 GI-SCREEN-Japanの基盤を活用し、進行消化器がんの患者さんの血液をリキッドバイオプシーとして解析するスクリーニングプロジェクト。