肺がんに対する免疫療法の新規耐性メカニズムを解明

2021/12/15

文:がん+編集部

 肺がんに対する免疫療法の新規耐性メカニズムが解明されました。がん免疫療法の新たな治療標的となる発見です。

PD-1阻害薬抵抗性に対する新たな併用療法を動物実験で確認

 国立がん研究センターは11月15日、体細胞変異数(TMB)が高い非小細胞肺がんの一部で、PD-1阻害薬の治療抵抗性に関わるメカニズムを解明したことを発表しました。同研究センター研究所 先端医療開発センター、名古屋大学、大阪大学、九州大学などの研究チームによるものです。

 PD-1阻害薬は、大規模臨床試験やこれまでの複数の基礎研究によって、一般的にTMBが高いがんに対して有効性が高いことが示されています。非小細胞肺がんでは、TMBが高いことだけが、PD-1阻害薬の治療効果予測のバイオマーカーにはならないことが示されていました。また、TMBが高く非自己抗原が豊富な非小細胞肺がんで、PD-1阻害薬に抵抗性となるメカニズムや、治療抵抗性となった場合の有効な治療法はこれまで明らかになっていませんでした。

 研究グループは、TMBが高く非自己抗原が豊富な非小細胞肺がんの網羅的な遺伝子発現および免疫解析から、TMBが高いにも関わらず免疫細胞浸潤に乏しい肺がんグループを発見。このような肺がんでは、血中にがん細胞を認識するCD8陽性細胞傷害性T細胞が多数存在するにも関わらず、肺がん組織内には浸潤できないことがわかりました。また遺伝子発現解析の結果、細胞の増殖や分化など多様な機能を果たす「WNT/βカテ二ン経路」が活性化することで炎症や免疫調で重要な役割を果たす「CCL4」という物質の発現が低下し、細胞傷害性T細胞の浸潤が抑制されていることが解明されました。

 さらに、PD-1阻害薬とWNT/βカテ二ン経路阻害薬を併用することで、がん組織内にCD8陽性細胞傷害性T細胞の浸潤が回復し、著明な治療効果が認められることが、マウスモデルで確認されました。

 研究グループは展望として、次のように述べています。

 「本研究成果により、TMBの高い非小細胞肺がんの一部では、WNT/βカテ二ン経路阻害薬とPD-1阻害薬の併用によって、免疫療法の治療抵抗性を克服できることが期待されます。今後、がん患者さんを対象とした臨床開発への検討を重ね、新たな治療法の選択肢となることを目指します」